ひとつになれない二人と紫煙
女「そういえば」
男「?」
女「例の銃ってどこに手に入れたんだい?まさか配給してるわけでもないだろう」
男「なんか怪しい外国人から、水ペットボトル6本と交換した」
女「とんだわらしべ長者もあったもんだ、日本は法治国家だったはずなのになぁ」
男「男子は三日会わなきゃ刮目しなきゃなんだし、国だって三年も経てば変わるだろうさ」
*
男「……」
女「綺麗だね、親子揃って綺麗に結晶になってる」
男「死んだあとでもなっちゃうもんなのか……ますますよく分からんな」
女「まぁいいさ、庭に立てて置いてあげよう。立派な墓標だ」
男「勇気がなくて、埋葬がおくれちゃってすみません。……安らかに」
女「おやすみ」
*
男「そういえば」
「?」
男「この前の配給の時さ、妙な宗教の人に声かけられて怖かった話したっけ」
女「初耳だね」
男「曰く、結晶になった人らは救済された善人で、残された僕らは赦しを請うべき罪人なんだって」
女「それを生き残ってる奴らが広めてるのかい、よく分からないな」
男「確かに。ただ、まぁ、そう考えれば少し嬉しくもある」
女「善人がこんなにいたんだって安心する?」
男「悪人もそこそこいたんだって安心する」
*
男「神様っているのかねぇ」
女「いるんじゃない?じゃなきゃこんなにあっさり、綺麗に世界が終わらないだろう」
男「……それならそれも、ちょっと嬉しいんだ」
女「死んでも消えないかもって思えるしね」
男「それに、神様も案外悪趣味なんだなって」
女「成程ねぇ。それにそこそこ生き残りもいるし、案外カミサマは人間くさいのかも」
男「手抜き工事?」
女「そうだね。それか君と私の、安っぽいメロドラマでも見たかったのかも」
男「俗な神様もいたもんだ」
女「まったく」
*
男「そういえばこの前さ……ん?」
女「ふー……どうした?湿気ってたかい」
男「いや、なんか途中で火が消えて……あー」
女「……煙草の葉も結晶になる条件を満たしてたのかな」
男「判定がよく分からんなぁ。秋の空ぐらい分からん」
女「女心は分かるのかい?」
男「君の心だけ分かればいいや」
女「―――ずるいよなぁ、君」
男「よく言われる」
女「なにか癪だな……じゃあそこまで言うなら、次に私が何をするか当ててみたまえ」
男「僕に煙草を一本くれる」
女「正解。ん」
男「火」
女「―――ん」
*
女「そういえば、君の誕生日っていつだっけ」
男「今日なんだけど」
女「冗談だよ、ハッピーバースデイ」
男「おぉ!ケーキ!……っぽいかたちをしたコンビーフの塊ハンバーグだこれ!」
女「味気ないが、味は旨いよ」
男「愛情は?」
女「あふれんばかりに」
*
男「そういえば、君の誕生日っていつだっけ」
女「……明日なんだが」
男「冗談だよ、ほらこれを進呈しよう」
女「え、ぎゃー!『われに五月を』じゃないか!しかも初版本!」
男「君寺山修司好きだもんね」
女「……ありがとう」
男「こちらこそ」
*
女「うーまれてー♪くるーあーさとー♪」
男「しんでーゆーくよるのー……これバースデイソングなのかなあ」
*
女「そういえば」
男「?」
女「世界の詳しい総人口数が出たらしい」
男「へー、臨時政府も食糧配給回すので手一杯だろうに。あぁ、だから逆に出しときゃなきゃまずいのか」
女「世界全体で8百万程度らしい」
男「……減ったもんだなぁ」
女「復興は……どうだろう。人類もっかい再熱するかなぁ」
男「そんなバンドのブームが終わったみたいに……賭けようか」
女「人類が復興するか、このまま滅亡するか?その選択肢じゃ賭けにならない、という方に賭けるね」
男「地球はずいぶん軽くなっただろうね」
女「どうだろう、重さ自体は変わらないんじゃ?むしろ結晶になったぶんで嵩は増えてるかも」
男「今宇宙から地球を見てみたい」
女「私たちの知ってるそれより白くて、ギザギザが増えてるのかな。それはそれで綺麗そうだ」
*
男「『私の髪は今頃、一本一本神様に数えられているでしょう』」
女「オー=ヘンリー?君が海外古典に食指を伸ばすとは珍しい」
男「君に触発されてね……どうせなら結晶になった彼らも、余すことなく見てもらいたいもんだ」
女「カミサマに?」
男「神様に」
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