後遺症

 ジジが大怪我をして帰ってきたから三日が過ぎた。怪我の回復は順調で、この調子なら後遺症はないと先生に言われた。


 でも……



「はい、これ飲んで?」


「ねえリリ、今日も飲まないとダメかな?」


「勿論。早く元気になってもらわないと!」


「でもなぁ……」


 言い訳を考えるジジの口元に、無言で魔力ポーションを押し当てる。


「ちょ…… リリ、分かったから一度それを置こう?」


「置いたら飲まないで収納するからダメよ」


「そんな事……しないよ」


「目が泳いでるわよ?」


「……」



 ジジは、渋々といった表情で魔力ポーションを手に持ち、


「ねぇ……」


「ダメよ?」


「分かったよ……」


 目を閉じ、震える手で口元まで運び――


「やっぱり今日は……」


 収納しようとしたので無理矢理口に流し込んだ。




「ねえジジ、どうして毛布を頭まで被っているのかしら?」


「リリが苛めるからだよ……」


「仕方がないじゃない。ジジの体は極端に魔力が少ないんだから」



 人は寝ればある程度魔力を回復する。人によって差はあるものの、そこまで気にする必要はない。


 でも、今のジジは別だ。

 人は常に何かしらの行動に無意識で魔力を使うため、空の状態から少しの回復ではすぐに魔力がなくなる。

 つまり、いくらジジが睡眠で魔力を回復したとしても、すぐに消えてしまう。



「私の魔力を分けることが出来れば一番早いんだけどな……」


「そんな方法があるの?」


「私は無理だけど、出来る人もいるわ」


「そっか……」


「心底残念そうね?」


「……」


「まあそのうち出来る人にも会えると思うから、教えてもらうわ」


「なら、それも旅の目的にしよう」


「そうね。でもその前に魔力が無くなるまで無理をしないでくれるかしら」


「そうだね、ごめん……」


「良いわよ別に?」


「少し休むね……」


「うん」



 まただ……


 あの日以来、ジジは何だか私との間に壁を作った気がする。気のせいかも知れないけど、微妙に前とは違うと思う。


 普通に話していても、何処か一歩引いているような……


「寂しいな……」


 ジジの反応はない。きっともう寝たのだろう。毛布を被ったままなので顔を見ることも出来ない。



 空になった瓶を持って部屋を出る。廊下は息が白くなるほど寒い。

 だけど何故か目だけは熱くて、空になった瓶に一滴落ちた。

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獣人は少女と旅をする 唄う猫 @inae

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