リリの優しさ
遠くから声が聞こえる。
リリの声だ――
そう思って目を開けようとしたが開かない。
夢……か?
「ジジ……起きてよ……」
耳元でリリが泣いている。仮に夢だとしても、リリが泣いているなら、その理由を解決しないと……
『……』
どうして泣いているのと聞きたいが、声も出ない。そもそも口が全く動かない。
「ねえってば……」
リリが多分僕を揺すっているのだろうか?
体が揺れている感覚はあるけど腕が動かない。
リリの行動は、耳を通して全て分かるから余計にもどかしい。
何で動かないんだ――
自分の体の中に閉じ込められた様に感じる。
『……』
何とかリリに合図を送りたいが、段々と遠くなるリリの声に焦りを感じ始める。
「ジジ、お願い………起きて……」
「待ってくれ、リリ!」
目覚めた時僕はベッドに寝ながら、右手を天井に向けていた。
昨日、先生に薬を渡した後椅子に座っていたはずだ?
「おや、気が付いたかい?」
「先生、いつの間に僕は運ばれたのですか?」
部屋に入ってきた先生は、変わらず真っ白な服を着ていた。
その姿は、あのトラウマが甦るから正直苦手だ。ポケットから針とか出てきそう……
「貴方は椅子の上で意識を失っていたのです。あ、今は起きてはだめです。彼女が起きてしまいますから」
体を起こそうとすると先生に止められた。先生が指差す方を見ると、リリが寝ていた。
「彼女、凄く貴方を心配していましたよ?」
ベッドに伏せながらも、しっかり手を握ってくれている。
でも、手に感覚がないせいで、握られていることに気付かなかった。
「あの、体の感覚が……」
夢の時みたいに目や口が動かないわけでは無いけど、凄い違和感がある。
「無くて当たり前です。死んでもおかしくない状態でしたので」
先生は椅子に腰掛けながら、真剣な表情になる。
死んでもおかしくない?
でもそんな筈ない。打撲と切り傷ぐらいだった筈だ。感覚を失うほどの怪我はしてないし、それで死ぬなんてこと無い筈だ。
「そんなに酷かったですか?」
「はい。打撲・切り傷が数十ヶ所、骨折二ヶ所に魔力切れ。貴方魔力切れなのに更に魔法を使いましたね? とても危険な行為なので、もう二度としないで下さい」
魔力、切れてたのか……
薄々気付いてはいたけど、まさか切れてたとは……
てっきり少なくなってきた……位だと思ってた。
「まあ……少し無理はしましたけど」
「少しではありません。貴方、そのせいで死にかけたんですよ?」
「死に……かけた?」
死んでもおかしくないから、死にかけたに変わる。先生も何かに火が付いたように話始める。
「ええ。魔力は生命力と同じと言っても良いです。魔力切れで更に魔法を使う行為は、長期間の空腹状態で更に運動しているのと同じです」
無理をしたつもりは無かっただけに、余計に申し訳ない。
怒るってことは、相当危険……だったのだろう。
「彼女が起きたら謝ってあげてくださいね? 凄い心配して泣いていましたから」
泣いていた……
やっぱり、あの時の泣き声は夢じゃ無かったのか。
「とりあえず、今日は念のため泊まっていってください」
「分かりました」
泣いていたと言う先生の言葉が胸に刺さる。あの泣き声を思い出すだけで胸が苦しくなり始める。
「ごめんね。心配してくれて、ありがとう……」
起こさないようにそっと頭を撫でると、さらさらの髪が指の間から流れた。
本当に綺麗な髪だ……
風邪も、すっかり良くなった様だし。
「うん……?」
「おはよ、起こしちゃったかな?」
リリは一瞬何かを考えるように首を傾げ、それを理解したのか勢い良くベッドにダイブする。
「リリ?」
そのまま勢いを殺さず、頭から突っ込んできて抱きつかれた。
「……心配、したんだから」
顔をうずくめながら呟き始めるが、微かに鼻声だ鼻声だ。
「ごめんね」
「許さない」
「えぇ……」
「どうして一人で行ったの?」
「リリが苦しそうだったから……」
「……ジジの馬鹿」
そう言って上げた顔を見て、僕は後悔した。
目から大粒の涙が溢れている。腕で拭いてもその水が止まることはない。
「もう無茶しないで!」
「うん……」
「絶対だからね‼」
「うん……」
「約束して!」
「約束する……」
「薬は嬉しかった。でも、ジジが死んじゃったら意味ないんだから!」
「……今度から気を付けるよ」
感覚がうっすら戻ってきた両腕でリリを抱き締めると、温かさが伝わる。
暫く声を殺して泣いていたリリは、落ち着いたのか体の震えが止まった。
「帰ったら、美味しいもの沢山作ってね?」
「分かった」
「ジジの世界のこととか、色々教えてね?」
「勿論」
上げた顔を見ると、涙は止まっていた。少し目が腫れているけど、いつものリリだ。
『可愛いな』
そう思いながら頭を撫でると、リリは擽ったそうにしながら俯く。
「恥ずかし……」
「ごめんね、だけどもう少しだけ良いかな?」
反応がちょっと楽しい。
「少しだけ……だからね?」
そう言って、リリは僕に寄り掛かりながら頭を撫でさせてくれた。
その後すぐにリリは、腕の中で寝息をたて始めた。緊張が解けたのか、凄く気持ち良さそうに寝ている。
「……本当、可愛いなぁ」
頭を撫でながら暫く顔を見ているが、すぐに起きることは無さそうだ。
心配されたことが何だかむず痒い。申し訳無さで一杯の筈なのに、何だか嬉しくもある。
「ありがとう、リリ」
そう呟くと、寝てるリリが笑った様に感じた。
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