第2話 Bパート

 

 

 集結したのち、『電光でんこう』の面々は連携訓練に明け暮れる日々が続いていた。

 その間、『黒い月』は不気味なほどに鳴りを潜めていた。


「文字通り、嵐の前の静けさ、だったりしてな」

 ここは "スナック バン" 。熱く黒いコーヒーを飲みながら、そんな言葉をこぼす天羽あもう

「嵐ちゃんの前ならいつでも静かに居るよ僕は。……怒らせると怖いからね」

 天羽の言葉にそんな風に返す山城やましろ

「あら、私が怒ると……どうなるのかしらねー、山城さん?」

 そんな山城の背後に立ち、溢れ出る怒気が抑えきれていない真弓嵐まゆみあらしが極上の笑顔を浮かべながらプレッシャーをかける。

「いいえっ、なんでもありませんっ」

 汗を滝のように流しながら、引きつった笑顔で答える山城。その力関係は明白だ。

「うん、判ればよろしい♪」

 黒いオーラは霧散し、晴れ晴れとした笑顔で持ち場へと戻る嵐。

 対して山城はヘロヘロになってカウンターへと突っ伏した。

「うへぇ……藪蛇だぁ」

 そう愚痴る山城へ、

「今のはお前さんが悪いよ。レディにはその美しさを称える言葉だけで充分。……嵐ちゃん、今日も綺麗だね」

 ギターで明るめのフレーズを奏でつつ、早瀬はやせが優男の矜持を示し、そのまま嵐への賞賛を送る。

 それが早瀬の日常的な挨拶だとしても、二枚目男子から臆面もなく美辞麗句を送られて嬉しくない女性は居ない。

 勿論、真弓嵐もそんなひとりであった。

「もー、早瀬さんったらお上手なんだから♪」

「……僕は君みたいに口が上手くないんだよ」

 女学生のようにはしゃぐ嵐を横目で見つつ、ますます愚痴る山城である。

 そんなやり取りを眺め、静かに柔らかい笑みを浮かべる天羽。

 "スナック バン" は絶賛平常運転であった。


 が、そんな憩いの時間が破られる。

 スタッフルームからマスターが緊迫した雰囲気をまとって現れ、

「皆、こっちへ来てくれ。仕事だ・・・!」

 有無を言わせぬ強い口調でそう告げる。

 その言葉で一瞬にして戦士の顔つきへと替わる四人。

 休息は終わった、ここからは戦いの時間!

 嵐が素早く店を片付け、天羽たちは地下司令室へと移動する。


「隊長、動きがありましたか!?」

 スナックの地下深くに密かに作られた、中央作戦司令室に到着するなり、天羽が状況を尋ねる。

 天羽の言葉に応えるかのように東山ひがしやまがコンソールオペレーターに指示を出し、メインモニターに『黒い月』による凶行の現場が映し出された。

 それはどこかの駅前の立体ロータリーの空中通路であろう。

 そこに『黒い月』のハイプリッドモンスター一体と多くの雑兵が逃げ惑う人々を拉致している様子がリアルタイム表示されている。

 それを見入る天羽たちに浮かぶ怒りの表情。

 彼らへと東山の声が飛ぶ。

「見ての通りだ。『黒い月』による強制拉致連行が進行中。"電光" はこれを阻止、敵の排除に掛かれ!」

「了解ッ!」

 左胸に右コブシをあわせる了承姿勢をとり、応える天羽たち三人。

「"電光" の初陣だ。失敗は許されん、が思う存分力を示してこいっ。――出動!」

 東山の号令一下、司令室を飛び出して行く三人。向かう先は『電光機』格納庫。


 『第三格納庫』と記された扉の向こう、そこにはポッド式ダクトファンのティルトローター機が待機してあった。

 これぞ特務部隊自慢の機動メカ電光機、中・近距離移動用の三号・電光ジャイロ。

 滑走路不要の垂直短距離離着陸機V/STOLで、亜音速で空を飛び、実働隊を現場へと最短時間で運ぶのだ。

 電光ジャイロへ乗り込む三人。

 操縦席には天羽が、航法・機関席には早瀬と山城がそれぞれに就く。

 プリフライトチェックを済ませ、発進シークエンスが進む。

 "FourthGate open. FourthGate open. Quickly! Quickly! FourthGate open. Second Before……"

 シークエンスアナウンスが流れる中、発進位置へと着く電光ジャイロ。

 滑走路のシグナルが発進を示すグリーンに変わり、発進担当官からの最終合図をコクピットから確認したのち、天羽が叫ぶ。

「電光ジャイロ発進ッ、ゴーッ!」

 スロットル全開、ダクトファンエンジンが唸りをあげ、電光ジャイロを大空へと舞い上がらせる。

 十分な高度をとってポッドを回転させ、水平飛行へと移行、最大速度で目的地へと飛翔する!

 往けっ、飛べっ、電光ジャイロッ。世界の敵はすぐそこだっ。



 都内某区駅前ロータリー。

 『黒い月』隊長格であるハイブリッドモンスターの号令の元、下級合成生命体である雑兵・ゾンナーたちが人間を襲い、捕獲していた。

「グモッホッホッ。男は大切な労働力だが抵抗するなら構わん、多少痛めつけても良い。女は生体細胞の供給元になる、大切に扱えよ? 子供も未来の構成員だ、丁重にな」

「ゾーィッ!」

 クモを基にしているのだろうクモ型のモンスターの檄にゾンナーたちが応える。

 しかし、その時!


「そうはさせんぞっ、『黒い月』のバケモノどもっ!」

「女性はすべからく世界の宝。汚い手で触れるんじゃないっ!」

「子供は未来の光、貴様らなんかにゃ渡さないっ!」


 雄々しい正義の使者の声が響き渡る。

 駅前ビル群に反響し、声の出所がわからず「どこだ? どこだ?」とキョロキョロと四方八方を見回すゾンナーたち。

 そのうちの一体が駅ビルの屋上を指し示し声を上げる。

「あっ、あそこだっ」

 ゾンナーが指差した先、そこには赤青緑の戦闘スーツをまとった三つの姿があった。

「グモッ、貴様ら、何者だっ!?」

 クモ型モンスターの訝しむ怒号に応えるかのように、名乗りを上げる三人の勇者!


 両腕を大きく開き、そのまま右を内回り、左を外回りに交差させ、再び開いたところでポーズを決める。

「空の戦士っ、電光レッドッ!」


 両腕を前に突き出して交差、そのまま引いて腰溜めにし、右腕を斜めに上げ、左を軽く開き、決めポーズ。

「海の戦士っ、電光ブルーッ!」


 左右に広げた腕を右左と片方ずつ振り下ろし、ベルトの位置で交差した腕を左を前へ突き出し、右はこぶしを顔の高さまで掲げてポーズ。

「陸の戦士っ、電光グリーンッ!」


 そして三人揃って左内回り蹴りで足を引き右半身を前へ傾けた状態になり、

「特務部隊っ、電光っ!!」

 の掛け声と共に個別の決めポーズ最後の姿勢を取る。

 三人から放たれ溢れ出す正義のオーラが『黒い月』を圧倒する。


「……で、"電光" だとぉ? ふざけるなっ! 者共、やってしまえっ!」

「ゾーーーーーーーィッ!」

 それでも、隊長格の意地がさせるのか、我を取り戻したクモ型モンスターがゾンナーたちへ発破をかける。拉致しかけていた人々を放り出し、電光へと討ちかかろうとするゾンナー。

「状況、開始っ!」

 レッドの合図で三人一斉にビルから飛び降りる。


 ――その自由落下する姿はとても美しく、まるで時が停まったかのように錯覚させた。


 着地と同時に確固撃破へと弾けるように駆け出す三人。

 ここに『黒い月』と電光の戦いの幕が上がる。


「レッドウィングッ!」

 広げた両腕を振り回し、ゾンナーを豪快に吹き飛ばすレッド。

 それはまるで鳥が翼を羽ばたかせる動きにも似ていた。

「ブルーバイトッ!」

 交差させた両腕で払い突くブルー。

 あたかも肉食魚が獲物を食い散らかしていく姿にも見える。

「グリーンクローッ!」

 軽く握ったこぶしを手首のスナップを効かせながら打ちつけていくグリーン。

 猫科の大型動物が振るう鍵爪のごとくゾンナーを抉る。

 陸海空、それぞれの生物の特徴を活かした攻撃、これぞ電光アニマルアタック!


 次々と打ち倒されていくゾンナーたち。

 だが、まだまだ数は多く残っている。どうする電光三勇士?


「電光ガジェット!」

 レッドがベルトの左側に固定されていた黒いスティックを手に取り、なにやらボタンを押して振るうと、スティックの片側から赤い刃が形成され、鍔の無い日本刀のようになった。

「レッドソードッ!」

 飛羽新堀流ひばしんぼりりゅう免許皆伝の腕が冴えまくり、ゾンナーをばったばったと切り伏せていく。

 舞うように振るわれるその剣技は実に美しかった。

「炎の剣が唸りを上げて、悪の野望を切り伏せるっ。一刀両断レッドソードッ、飛羽返しっ!」

 

 ゾンナー軍団に囲まれるブルー。だが慌てずガジェットを取り出しスイッチオン。

「ブルーロッドッ!」

 スティックがブルーの身の丈ほどに伸び、その両端が青く輝く。

 脇に抱えて一回転、吹っ飛ぶゾンナー。

 しなるロッドが次々とゾンナーたちを打ちのめしていく。

「迫る荒波逆巻く渦潮、青い光が悪事を懲らすっ。一閃炸裂ブルーロッドッ!」

 

 ゾンナーに圧し掛かられて埋もれていくグリーン。だが慌てずすかさずガジェットオン。

「グリーンハンマーッ!」

 スティック変形、長尺のハンマー形状へ。打撃面は緑に鈍く光る。

 とたんに圧し掛かっていたゾンナーたちが弾け飛ぶ。まるで圧力をそのまま返されたかのように。

「悪鬼羅刹何するものぞ、緑の風が吹きとばすっ。一撃粉砕グリーンハンマーッ!」


「グモモ、モモッ。まさかここまでやるとは……」

 ゾンナーたちは全て打ち払われ、ひとり残るクモ型モンスターにも焦りが生まれていた。

「残るは貴様だけだ、観念しろっ」

 レッドソードを突きつけ、最後通牒する電光レッド。

「グモモ、このクモパズー様に何たる侮辱。その罪貴様らの死であがなってもらおうぞっ」

 眼から光を放ち突貫してくるクモパズー、鈍重そうな姿からは信じられないスピードだ。

「ぐあっ」

 クモパズーの突進をかわしきれず、吹き飛ばされるレッド。

「レーッド」

「このぉ、クモめーっ」

 レッドの元へと駆けつけようとするブルーとは反対に、グリーンはハンマーを掲げてクモパズーへと突っ込んでいく。

 そんなグリーンへ、

「ちょっ、考えなしに突っ込むって!」

 ブルーの指摘が飛ぶが、聞く耳持たず直情的に突撃していくグリーン。

「おぉりゃあっ」

 全力で打ち込まれるハンマー!

  だが、クモパズーはそれを片腕で楽々受け止め、

「グモモ、軽い軽い。効かんなぁっ」

 あざけりとともに、逆に手痛い一撃をグリーンへと穿つ。

「うわぁーーーーーっ」

 レッド、ブルーのところへと吹っ飛ばされるグリーン。

 倒れこんでいるグリーンの腕を取り、立ち上がらせながらブルーが言う。

「奴さん、一対一なら嫌なくらい強いぞ。ここはチームワークと行きましょう?」

「――だな」

「賛成。やりますか」

 ブルーの提案に乗るレッドとグリーン。

 立ち上がった彼らはクモパズーと対峙する。

「グモッホッホッ。貴様らではこのクモパズー様の足元にも及ばん。観念するのはそちらだったようだなぁ?」

 いやらしい笑い方で特務部隊をあざけるクモパズー。

「そいつはどうかな?」

「覚悟決めるのはそっちかもよ?」

「今度はちょっと違うぞぉー」

 各々のガジェットを構えながら不敵に返す電光。

 格下に見た敵にそう返されて、大人しくするクモパズーではない。

「グモモッ、ふざけるなっ、塵芥ちりあくたに還してくれる」

 怒り心頭で突っ込んでくる。冷静さを欠くその突進に先ほどまでのスピード、パワーは無かった。

「それを、待ってたっ」

 クモパズーの突進にあわせるようにグリーンが飛び出し、クモパズーの足元へとスライディングしながらハンマーを振るう。

 突進力を利用され、空中を舞うクモパズーをそのままブルーのロッドが打ち据え、

「クモ野郎の一本釣り、てなっ」

ロッドに捕らえたまま、さらに勢いをつけるように後方へと投げ飛ばす。

 飛ばされて行くクモパズーを待ち構えていたレッド。

 肩に担ぐように構えていたソードが煌めく!

「とぉーっ」

 掛け声一閃、振るわれた剣がクモパズーの胴体を薙ぎ払った。

 派手な火花と爆発煙をあげながら、吹っ飛ぶクモパズー。

「グモモーーーーーー」

 ふらふらしながらも立ち上がるクモパズー。そこへ、

「電光、三連アニマルアタック!」

 レッドウィング、ブルーバイト、グリーンクローの波状攻撃が見舞われた。

 弾き飛ばされ身体のあちこちから火花を上げるクモパズー。

 さらに追い討ち、

「電光ーーーー、キーーーック!」

 三人が横並びで同時に前方回転蹴りを見舞う。

「グモーーーーーーッ」

 蹴り飛ばされ転がっていくクモパズー。

「グモモ……なぜだ? なぜ急に強くなったのだ……?」

 よろめきながらも再び立ち上がるクモパズー。

 口から洩れるのは豹変した彼らへの疑問。

「それは」

「一足す一足す一は三じゃない」

「そう言う事」

 答えはクモパズーのすぐ傍らから返ってきた。

 いつの間にか接敵した電光の三人が中腰の姿勢でクモパズーを囲むようにして肩を組み、そしてそのままクモパズーを芯にして横回転しながらジャンプした。

「スクラムタイフーンッ!」

 そして跳躍の頂点でそれぞれが後方回転しながらクモパズーへと蹴りを放ち、さらに高みへと押し上げ、落下のエネルギーを大きくしようする。

 連続した攻撃のため疲弊し、受身を取る事もままならず、無様に地面へと叩きつけられるクモパズー。

 ボロボロの身体で何とか立ち上がるも、既に反撃する力を失っていた。

 そんなクモパズーを見てレッドがコマンドを発す。

「電光フィニッシュだ」

「了解ッ」

 ブルーとグリーンが即座に答え、クモパズーを中心に距離をとりつつ三方へと分かれる。

「電光銃セットッ、ロックオンッ!」

「ロックオンッ!」

 それぞれのベルト右ホルスターへと納められていた電光銃を抜き、それに電光ガジェットを組み合わせる。

 電光銃のポインターから発せられた光がクモパズーを捕らえる。

 三方向からロックオンされたクモパズーはその捕獲光線により身動きが取れない。

「モード・エクスキューション!」

 電光銃のバレルが展開し、破壊エネルギーの収束が始まる。

 収束されたエネルギー光弾は打ち放たれる時を今か今かと待つ。

「電光フィニッシュッ!!」

 三人の声が重なり、溜まりに溜まった破壊エネルギーが解放され、クモパズーへと打ち込まれる。

「グモモモモ、モーーーーーッ」

 クモパズーの断末魔と共に大爆発が起こり、ハイブリッドモンスターの撃退が完了する。

 クモパズーの消滅を確認したのち、レッドの撤収号令が上がる。

「状況終了っ、撤収っ!」


 この瞬間、戦いをモニターしていた特務部隊作戦本部、そして部隊司令・蒲生がもうの執務室で、勝鬨が上がったのは言うまでもなかった。



 この世のどこかにある『黒い月』のアジト。

 その王の間に情報将校ゾンナーが慌てて飛び込んでくる。

「美しき我らが女王、ゾーン様にご報告。日本で作戦行動していたクモパズー様が討ち果たされました」

 ソファータイプの玉座に、なまめかしい姿態を持たれかかせるようにしてくつろいでいた、全身銀色の美しき女王ゾーンは、何をそんなに慌てているのかと訝しく思いつつも、

「そうか。……で、クモパズーはいかほどの戦果を挙げた? 以前アメリカのテキサスで倒れたバッファローパズーは人類側の大部隊との戦闘に大都市一つ巻き込んで討ち死にしたが、日本と言う国は狭いと聞く、都市の二つ三つは抱えたか?」

 その女王の言葉に情報将校ゾンナーはためらうように、

「……いえ、大規模破壊戦果は皆無。たった三人の戦士に討たれました」

 その報告に鉄面皮の女王も眉をしかめる。

「なんと、たったの三人にか?」

「……はっ。これを御覧下さい」

 情報将校ゾンナーが手をかざすと、王の間の中空にモニターが現れ、クモパズーの戦闘記録映像が再生される。

 叱責されるのではないかと内心焦っている情報将校ゾンナーを尻目に、その映像を見終えた女王は愉悦の声を上げる。

「――面白い、面白いぞ、こやつら。たかだか三人で妾自慢の戦士を倒すか。――して、こやつらの名は?」

「電光。特務部隊 電光、そう名乗っておりました」

 情報将校ゾンナーの言葉に女王は目を輝かせ、

「電光、か。世界を手にする楽しみがひとつ増えたのぉ。ホーッホッホッ」

 と、とても楽し気に高らかと笑った。



 初陣を勝利で飾った特務部隊 電光。

 だが『黒い月』の悪の魔の手はすぐにまた伸びてくる事だろう。

 負けるなっ、電光。

 戦えっ、電光。

 勝利だっ、特務部隊 電光ーーーーーーっ!!



 次回も、特務部隊 電光の活躍をご期待下さい。

 

 

 

 

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特務部隊 電光 シンカー・ワン @sinker

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