特務部隊 電光
シンカー・ワン
第1話 Aパート
二十一世紀後半、人類は突如『黒い月』と名乗る謎の組織からの宣戦布告を受けた!
宗教、人種、国益等、未だひとつにまとまれぬ人類に対し、
宣戦布告から間をおかず各国の主要都市に対し同時攻撃を慣行、対応に手間取る人類に多大な痛手を負わせ、その力を誇示、宣言に対する即時回答を求めた。
この緊急事態に各国首脳は一堂に会しすぐさま対策を練るが、それぞれの主義主張で混乱し一向にまとめられず、この不具合に業を煮やした時の国連総裁アデル・アフマディの提案により、各国それぞれで迎え撃つ事に。
どの道『黒い月』が送り込んでくる戦力は強力とはいえ小規模であり、その攻撃手段も突然現れての破壊活動、いわゆるテロであるために、軍隊規模の戦力での対抗は運用が難しい事もあり、この案は諸手を挙げて迎え入れられた。
少数精鋭戦力での即時対応、確固撃破。
対『黒い月』として、これが人類が出した答えであった。
その決定に対して、日本国政府の対応は世界のどの国よりも素早かった。
オタク趣味者として世間的に知られる蒲生大臣はそれを嬉々として拝命し、側近に楽しげに笑みをこぼしながら、こう話したと言う。
「日本に向けた宣戦布告の音声に飯○昭三にクリソツな合成音を使うなんざぁ、
蒲生大臣の号令一下、日本国防衛隊の各部隊から精鋭達のリストが作られ、部隊員が選抜されていった。
メンバーの選択において、大臣からの厳命は
「能力はモチのロンだが、
であったとされる。
そして命令が下されて十日後。
世界各国の多くがまだ部隊案も作れていない中、信じがたい迅速さで対『黒い月』特別任務部隊の編成が完了。
それは蒲生大臣によって『
「光の速さで駆けつけ、イナズマの力強さで敵を倒す。どうだい、イカス命名だろ?」
意味を問われた大臣は、それはそれは嬉しそうにこう答えたと言う。
前線で戦う実働部隊。防衛隊兵器開発部が密かに研究し作り上げた特殊強化戦闘服、通称・電光スーツを身にまとい、『黒い月』のハイブリッドモンスターと直接まみえるのは三人の戦士。
その一人目は航空隊から選ばれた静かなる熱血漢、
卓抜した空戦技術を持つパイロットにして
どんな航空機も難なく操り飛ぶ姿から『空を飛ぶために生まれた男』と称された。
空の戦士、電光レッドに変身する!
二人目は海防隊からの選出、海洋学位持ちにして海難救助隊から転職で防衛隊へ入った変り種。
フリーダイブ世界大会の上位常連、『海を知る男』ことクールな二枚目、
海の戦士、電光ブルーに変身する!
そして三人目、陸防隊からレンジャー徽章持ちで、柔道オリンピック中量級強化指定選手でもある
アウトドアレジャー、アウトドアライフ大好きの心優しい力持ち。『大地と語る男』の別名を持つ。
陸の戦士、電光グリーンに変身する!
彼ら三人は『黒い月』出現と同時に万能機動兵装『電光機』に乗って現場へと駆けつける。
『黒い月』撃退の準備は出来たッ!
『電光』結成から三日後の都内某所。
街中の喧騒から少し離れた簡素な住宅街の一角に在るひなびた一軒屋。表に出ている電飾の看板には『スナック バン』とある。
そこへ一人の若者が入ろうとしていた。精悍な顔つきだが、どこかしら愛嬌がある。そう、言ってみれば少年の日の夢を忘れていない大人の顔とでもいうべきか。
若者がどこか嬉しそうな笑みを浮かべながら、店名を確かめドアを開ける。ドアストッパーにぶら下げられている二組の鈴がチリンチリンと来客を知らせるために軽やかに響き、
「いらっしゃいませーっ♪」
と、カウンターの端に立っていたウエイトレスが鈴にも劣らない軽やかな声と笑顔で迎えの言葉を告げる。
さほど広くはない店内。カウンターと四人掛けテーブルが二つあるだけの質素なレイアウトだ。
店内にはカウンター内にいる店主らしき人物と先ほどのウエイトレス。
そして店主正面のカウンター席に陣取り、店主とどうやらカレーについて熱く語っている男。
奥側のテーブル席で、昔のテレビ番組で赤と青のアンシンメトリカルなヒーローが登場する時に鳴らしていたメロディを静かにギターで爪弾いている優男、この二人の客がいた。
若者はその二人へ軽く視線を巡らせたのち、ウエイトレスに近い方のカウンター席に腰掛ける。
若者が席に着くのを確かめてから、ウエイトレスが待ってましたとばかりにお冷を出しながら、例の鈴を転がしたような声で注文をうかがう。
「なんになさいますかー?」
若者は備え付けられているメニューに目をやると静かに言った。
「月の地獄のような、黒くて熱いコーヒーを」
その一言に、ギターの音が止まり、店主との会話が途切れ、客の二人から若者へと視線が刺さる。
にこやかに客とのカレー談義を楽しんでいた店主と、ウエイトレスの顔つきも変わった。
店主が小さな仕草で何かしらウエイトレスに指示する。
彼女は素早く行動を起こし、表に出していた電飾看板を仕舞い、ドアプレートの『OPEN』を反転させ『CLOSED』にすると、窓にかかるカーテンを閉じ、店を終業状態に。
ウエイトレスがその作業をしている間に、店主は三人の客に対しても同じ様に軽い仕草で付いてくるように指図すると、カウンター後ろのスタッフルームへと招く。
店主に先導されスタッフルームへと入る三人の客。
皆がそこへ入ると店主が、スタッフルームの奥の壁に取り付けられた、何かをはめ込む様になっているパネルを示し、重々しく呟く。
「例の物をそこに」
三人の客はその言葉に軽く頷いてから、それぞれ懐からポケットから赤・青・緑色をしたクリスタル製のパズルのピースの様な物を取り出し、パネルへとはめ込む。
一瞬の間のあと、パネルが明滅すると、壁の一角がすっと開き二メートル四方の小部屋が現れる。三人が躊躇せずそこへと入ると扉が閉じ、小部屋ごと下へと沈み込む感覚が伝わってくる。
小部屋はエレベーターだったのだ。
かなりの高速で降りていくエレベーター。十数秒後その沈下速度からは信じられないほどの静かさで停まると扉が開く。
そこから真っ直ぐ延びる通路を進み、突き当りにある扉前に三人が立つと招き迎えるようにそれが自然に開いた。
開けた先は十メートル四方の広さのフロアで、両側の壁には各種モニターとコンソールが並ぶ。今は居ないがそこには何名ものオペレーターが付くのだろう。ここは中央作戦司令室なのだ。
フロアの中央奥にはもっとも大きなディスプレイが設置されており、その前に重厚だが機能的なデスクとコンピューターの端末、そして細身だがしっかりした体躯の男が立っていた。
「ご苦労、諸君」
淡々とした響きだが良く通る渋い声で労いの言葉を発したのは誰あろう、あのスナックの店主だった。
ただ、先ほどまでの縦ボーダーのワイシャツに明るい柄物のエプロンといったいかにもな店主スタイルではなく、濃緑色をした詰襟の制服に偏光グラスといったどこか怪しげだが威厳のある趣だった。
店ではいくらか猫背気味だった姿勢も、体幹の鍛えられている事が見て取れるバランスの良いものになっていた。
「――私が特務部隊の部隊長、
東山がそう告げると三人は姿勢を正し、真ん中に立っていたあの若者が代表するように着任報告をする。
「天羽宙、早瀬潮、山城陸の三名、ただいま着任しました!」
「着任を認める。楽にしろ」
東山のその言葉に気を付けから、両腕を後ろに回し軽く脚を開く休めの姿勢になる三人。
その訓練された機敏さにほほを緩める東山。
「我々のすべきはただ一つ。『黒い月』を迎え撃ち、殲滅する事。それをなす為には多少法を破る事も許される超法的機関である事と、その責任の重さをけして忘れてはならん。良いな?」
「ハッ!」
部隊の目的と特殊性を聴かされ、踵を打ち鳴らしそれに即答する三人。
「よろしい。先ずは我が部隊の司令からのメッセージがある。それを聴いてくれたまえ」
そう言って手元のコンソールのスイッチを押す東山。
スリープ状態だったメインモニターに光が戻り、画面の端には "LIVE" の文字が見える。
執務室に居るのであろう、藪にらみの現役感バリバリの壮年の男が映し出され、味のある嗄れ声で喋りだした。
「特務部隊の諸君、司令を務める防衛大臣の蒲生だ。俺ゃあ、堅苦しいのは苦手なんでざっくばらんに言うがよ、『黒い月』の連中叩きのめす多少の無茶の後始末は俺が何とかするから、徹底的にやってくれ。たーだし、君らがどうして選ばれたのかは肝に命じててくれよ? 君らの胸ん奥に熱く燃えてるヒーロー魂を汚すんじゃねぇぜ? 大手振ってガキの頃からの憧れだった正義のヒーローやれるんだ、こんなにおもしれぇこたぁねぇだろぅ、ん? 期待してるぜ電光の諸君よぉ。……ホントはなぁ、"戦隊" って名づけたかったんだよ俺ゃあ。こればっかりゃあ融通が利かなくってよぉ、残念無念だぜ……。おぅ東山、現場は任せたからな、よろしくっ!」
気さくなべらんめえ調で言うだけ言うと映像は切れ、モニターは光を失い、再び待機状態に。
モニターへと向けていた体を返し、三人へと向き直ると東山は苦笑いを殺せずに言う。
「……と、言う事だ。宜しく頼むぞ諸君ッ!」
「ハイッ!」
それまでの硬さが解れ、喜色満面で答える三人であった。
その光景をよしとした東山が話しかける。
「堅苦しい話が済んだところで、もう一人紹介しておこう。……入って来たまえ」
東山の言葉に呼応するように、司令室左側のドアが開き、制服に身を固めた妙齢の女性が入って来た。
その顔を見て、天羽が声を上げる。
「あ、君は」
天羽の言葉に女性は軽い会釈で応えると、東山から一歩下がるようにして並び立つ。
「
東山が最後に苦笑を交えながら紹介すると、
「真弓嵐です。よろしくお願いします!」
真弓が、さっと敬礼しながら挨拶する。
あわてて三人が返礼をすると、それにウインクをひとつ飛ばして、
「期待してますよ、お三方?」
と、極上の笑みで返した。
Bパートへ、続く。
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