第9話 悲嘆

 清明せいめい直比呂なおひろの屋敷を再び訪れたのは、「桔梗を探して欲しい」と依頼を受けてから三日目の夕方のことであった。


   ◇◇◇◇◇


 桔梗が消えてからの直比呂は、魂が抜けたような日々を過ごしていた。


『例えあやかしであったとしても、心より愛したひとが、傷ついたままのその姿で己の目の前から忽然こつぜんと消えてしまった』

という事実を、受け止めきれずにいたのだ。


身重みおもの身体で、しかも大傷を負って……」


瀕死の桔梗を胸にいだいた時に見た、懸命に微笑ほほえもうとする桔梗の最後の顔を思い出すたびに、直比呂の両の目からは涙があふれてくるのだった。


「何故、こんな事になってしまったのだろう……」

直比呂に、波のように繰り返し押し寄せる「後悔の念」。


 幾度も幾度も思い起こす血にまみれた場景じょうけいに、直比呂の心は張り裂けそうに乱れ、遂にはとこして、食物もろくに摂らずに終日泣き続けたのだった。


   ◇◇◇◇◇


 清明が訪ねて来たと聞き、やっと床からい出た直比呂だったが、髪は乱れ頬はこけ、その落ちくぼんだ目からはすっかり生気が失われていた。


 以前と同じ部屋に通されたはずなのだが、迎えてくれた直比呂のその変わりように言葉を失う清明であった。

(まだ三日程しか経っていないというのに、このおかたのやつれたさまは何ということか……)


 清明は、心の動揺をぐっと飲みこんで静かに直比呂に声を掛けた。

「御加減はいかがですか? ちゃんとお休みになっておられますか?」


 直比呂はその問いには答えずに、顔をゆがめながら渾身こんしんの力を振り絞って清明に問い返すのだった。


「清明様、桔梗は…… 桔梗は見つかりましたでしょうか?」


―― 刹那せつな、重い沈黙がその場を支配した ――







 

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はんとら 立花佳奈 @kanat

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