コップの中の漣

卯月

裁判

 若者の前に、二杯の水がある。

 彼は目を皿にして、神官によって用意された、色も形も同じコップを見比べている。彼の震えが透明な水面に起こす漣、その微かな揺らぎの差さえも見逃すまいと。

 これから彼は、どちらかを飲まねばならない。


 彼の姉に乱暴しようとした悪党を殴ったのは、事実。しかし打ち所が悪かったのか、悪党は死んでしまった。

 自身の行いに非があるとは思わない。死んだのが村長の息子であっても、罪は罪、正義は正義だ。

 神もきっと、自分の無罪を認めてくださる。

 だから、必ず、毒が入っていない側を選ぶことができるはずなのだ。

 覚悟を決め、片方の水に手を伸ばす。



 若者の前に、二杯の水がある。

 水には、どちらも毒が入っている。

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コップの中の漣 卯月 @auduki

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