第二色:夢色
からんころんからんころん
軽やかな音を立てて約束の場所へ向かう。
君はどんな顔で笑ってくれるのかな。
君はどんな顔で褒めてくれるのかな。
楽しみで楽しみで仕方がない。
黒地に風に舞う桜の描かれた浴衣を着てスマホを弄る君を見付けた時、このまま心臓が止まってしまえばいいと思えるほど、嬉しくなった。
君はこちらに気付いて片手を上げて近付いてきた。
僕の服を見て彼は顔を綻ばせた。
『似合ってんじゃん』
嬉しそうに頬を緩めて彼は笑い言った。
その顔を見て『あぁこの服を着て来て良かったな』と思う。
彼のこの笑顔を見るために頑張って選んだのだ。
だって彼はまるで自分の事のように、すごく嬉しげに笑うから。
彼が照れくさそうに僕の手を掴んで屋台が立ち並ぶ道を指す。
『じゃ、行くか? とっておきの場所、見付けてあるんだ』
そう言って僕の手を引き彼は『とっておきの場所』へ連れて行ってくれた。
途中の屋台でかき氷とたこ焼き、そして焼きそばを買った。僕はメロンで彼はブルーハワイ味のかき氷を買った。
彼の『とっておきの場所』で一緒に食べたかき氷や焼きそば、たこ焼きはいつもよりも美味しく感じた。
二人で舌を出して色が変わってるのを見て笑い転げたのは良い思い出だ。
いつまでもこの時間が続けば良いのに。
何度そう思ったか。
けれど、この時間がもうすぐ終わる事を僕は知っていた。だからせめて、この時間だけでも彼と思い出が作りたかった。
『おーい? そろそろ花火打ち上がるぜ?』
いつの間にか彼が僕の顔を不思議そうに覗き込んでいた。
僕は『大丈夫だよ』と返し打ち上がった花火を見た。
空に大きく鮮やかに咲く華は、僕の心に深く綺麗なものを与えてくれた。
僕は無意識に『月が綺麗だね』と零していたらしい。彼がそれを笑って『あぁ、すっげぇ綺麗だな』と答え僕を抱き寄せてくれた。
……あぁ、こんな事なら、来なきゃ良かった! こんなに幸せなら、彼と両想いなら、こんな夢を見なくて済んだのに…。
そう思いながら祭囃子の響く、綺麗な夜は終わりを告げていった。
──僕と彼が過ごしたのはこの日が最後だった。
何故かというと、僕が酔っ払い運転の起こした事故に巻き込まれ、幼い子供を庇い死んでしまったから。
彼は泣いていた。悔やんでいた。
『そんなに自分を責めなくて良いんだよ……だって、だって僕は──ずっと君の事を見てるからね』
そう言って僕はふわりと彼に抱きついた。もう二度と離さない、というかのように…。
彩散短篇集 壱闇 噤 @Mikuni_Arisuin
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