第6話 20180711 千葉駅前。納涼。能力者


 本日の最高気温は33度だって。

 こんな日に外を歩いてたら焼け死ぬだろうし、授業を受けても頭から熱が出て死ぬだろうし、部室に行ったら溶け死ぬと思うので、図書館に行くことにした。

 涼しい建物の中で小説を書くことしか生きる術は残されていない。


 うちの大学の附属図書館は数年前に改築され、4棟からなる洒落た建物に変わったのだが、建築学科があるくせにどういう訳か壁をガラス張りにしてしまった。本を収納する施設として日光を遮らないというデザインは如何なものかと思うのだが、たぶん、お金を集めるためには見た目を派手にする必要があったのだろう。設計を担当した教授は本を読まない人なのかもしれない。


 自動ドアが開き、暑さから遮断される。


 そうそう。能力バトルものの小説が書きたいんだった。

 涼しさを手に入れたことでようやく頭が回り始める。舞台は千葉市。先月末にようやく改装工事が終わった千葉駅のあたりだ。大学生や高校生、会社員や老人、様々な人間が一堂に会する駅前を見て、こいつら全員能力者だったらいいのになーと思い付いたのだ。


 学生証を機械に通してゲートを抜ける。目指すは3階。学習室の端末は空いているだろうか。


 能力に目覚めた彼ら彼女らはもちろん戦う。でもこんなに暑い中で戦うのは大変そうだ。汗だくになりながらビル街を駆け抜けるのはつらいだろう。水を操る能力者がいたらライバル達から羨ましがられるはず。ああそうか、ラスボスが水系能力者で、主人公たちはそいつの能力を奪うために戦うように設定すればいいのか。戦う理由は納涼のため。

 うん、いける気がする。


 学習室には端末が設置されていて、それぞれの席には簡単なパーティションもある。出来るだけ隅っこの席を選んで、急いで端末の電源を入れる。もどかしい。早く早く。今浮かんだイメージを文字にしなければ。

 IDとパスワードを入力して、エディタを開いて、キーボードに両手を載せたところで、

 物語のイメージは霧散した。

 さっきまであれほど脳内にあったのに。


 画面には、『千葉駅前。納涼。能力者』とだけ書いてある。ダジャレが暴発してて最悪な感じだ。


 なぜいつもいつも小説が書けないのか。

 ――今まで小説が書けなかったのは道具のせいだ。

 先日、文図に伝えた文章を思い出す。あれは彼女に伝える意図もあったが、同時に自分を勇気づける目的もあったのだ。

 俺も、何か新しい道具を使ってみるべきなのか。


 椅子の背もたれに後頭部を載せ、そんなことを考えていると。

 隣のパーティションに着席する音が聞こえた。

 文図てぷらがそこにいた。

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おのれ分解散! 素夏 @soka

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