後編


「居たか」

「いや、何処にも」

「不味いな……。これじゃあ、織り姫がいないまま七夕になってしまうぞ。そうなってしまえば、」

「しまえば?」

「願い事は、誰一人として叶わない。そんな最悪の事態になりかねない」


 ロケット技師の言葉に、少年は目を丸くする。


「じょ、冗談ですよね?」

「冗談を言うような人間に見えるか?」


 ロケット技師は、飛ばないロケットを作る偏屈者で変わり者であるということは、もっぱらの噂だ。

 だから冗談という寄りかは、やっぱりそれが本当なのでは無いかと信じざるを得ない状況に持ち込まれている――と言ってもいいだろう。


「安心せい。場所は確定している。いつも、奴はあそこは居るんだ」

「あそこ……っていったい何処ですか?」

「ついてくれば分かることじゃ! 向かうぞ! 乗り込め」


 軽トラックの助手席に少年を乗せると、そのままアクセル全開でどこかへと向かっていった車。

 果たしてどこへ向かうというのだろうか……。



◇◇◇



 島唯一の駄菓子屋。

 そこで星のような形をしたキラキラとした甘いものをただじっと眺めている少女がいた。


「やっぱりそこにおったか」


 それを見たロボット技師は、彼女にそう言った。


「……これ、欲しい」

「言ってくれれば儂のところにたらふく用意しておいたというのに。これ、ばあさんや。これを一箱くれないかね」


 そう言ってプラスティックの容器いっぱいに入ったそれを差した。

 購入後は大急ぎでロケットへ戻る。

 ロケットに彼女を乗せて、コントロールルームへと向かう。


「あの……おじいさん。結局、あれは何だったんですか?」

「何だ? 金平糖も知らないのか?」

「いや。知っていますけれど。なんで金平糖を求めているのか、って話ですよ」


 ロケットは飛び立っていく。

 成功だ。そう呟いたのち、ロケット技師はぽつりと呟いた。


「……きっと、星の形にそれが似ていたからじゃろうよ」





 その思い出は、僕の胸の中で永遠に忘れることは出来ないだろう。

 金平糖を食べながら、今日も星を眺めるのだった。

 今日は七夕。きっと今頃天の川を渡って織り姫は彦星に出会えているのだろうか。そんなことを思いながら、もう一つ金平糖を口の中に放り込むのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

落ちてきた織り姫と僕らのロケット 巫夏希 @natsuki_miko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ