第12話 女子会と鍛冶見学会

 現在閉店時間直後。俺の工房でお茶会が始まっていた。というのもミリカがお菓子を持ってきたせいだ。そろそろ剣打ちたい。

「そうなの、ミリカはいろんなダンジョンに潜ってきたのね。」

「そうよ!大変な目にも遇うけどそれ以上に楽しいの!」

「シン様はダンジョンに行かれないのですか?」

 俺にその話を振らないでくれ。

「そうだよ~!前も誘ったのに行かないの一点張り。今度こそ行こうよ!」

「断る。死にたくない。」

「あら、ついて行けばきっとご褒美があるんじゃない?ねぇ?」

 向かい側に座っていたのに、わざわざこっちに来て耳元で囁く。

「あのな?仮にそのご褒美があったとして、死ぬ可能性の高いとこに俺は行かない。それと俺は早く剣打ちたいんだが?」

 付き合ってられん、椅子から立ち上がりお茶会を後にする。

「あの、お願いしてもいいですか?」

 ・・・つもりだったがクリュンさんに呼び止められた。

「剣をつくるところを、見学させて下さい!」

「え?」

「いいわねそれ、私も見学するわ。」

「じゃあわたしも!」

 こいつら・・・。

「ダメですか?」

「・・・邪魔をしないならいいですよ。それと大分つくるのには時間が掛かりますからね。」

 仕方ない、剣を打つか。しかし誰かに見られながら打つのは初めてだな。


「耳栓付けといて、耳痛くなるから。」

 と、耳栓を差し出したが、サリフィアに拒否された。

「大丈夫よ、遮音の魔法かけたから。」

「俺にも遮音の魔法かかってんなら俺だけ外してくれ。調子が狂う。」

「それは困ったわね・・・。わたしの遮音魔法は範囲系統の魔法だからどうしても周りを巻き込むわ。」

 魔法には属性とかの他に発動範囲がある。自分自身にしかかけられない魔法を自掛じけい魔法、対象1つにしかかけられない魔法を単体魔法、指定した範囲に対し魔法かける・発動する制限範囲魔法、そしてある程度範囲が決まっており、その範囲の対象全てに魔法をかける、無差別範囲魔法がある。どうやらサリフィアの遮音魔法は無差別範囲魔法らしい。

「なら耳栓で我慢してくれ。」

 渋々サリフィアは耳栓をつけ、クリュンさんもその姿を見て、耳栓をつける。しかしミリカだけ「音を生で聞きたい!」とか言っていたので耳栓だけ渡しといて剣を打ち始める。そして打つ度に耳を押さえつけて、2~3回打ったところで遂に耳栓を付けた。風魔法を起こし炉の火力をあげ筋力アップの魔法を自身に掛ける。俺は自分以外誰もいないものと打つことに集中した。


 いつものことだが集中すると時間分からなくなる。ふと横を見ると、サリフィアは顎に手を当て、クリュンさんは直立不動で食い入るように見ている。ミリカは・・・寝てやがる。よく寝れるな。

「さて、仕上げだ。」

 そう言い俺は剣を桶に浸け、締める。

「ざっとこんなもんだな。後は地味な修正だけだ。見ていて面白かったとは思えないけどね。」

「そんなことありません!無理を言って見学させていただきありがとうございます!」

「そうね、なかなかに楽しかったわ。」

「なら、見せた甲斐があるな。しかし・・・」

 約1名寝ている。折檻してぇ。

「あの・・・」

 不意にクリュンさんが声をかけてくる。

「どうかされました?」

「あの、よろしければ彫刻刀もつくっていただけませんか?」

「えぇ、構いませんよ。ですが、つくらないとないから少し時間がかかりますよ?」

「はい!えっと、それと・・・その・・・」

 急に歯切れ悪くなる。

「よろしければ、わ、わたしのこと・・・呼び捨てで呼んでいただけませんか?け、敬語もなしで!」

 なんだそんなことかと思ったが、サリフィアが目を見開いている様を見るからに、相当なことなのだろう。

「あぁ、よろしくな、クリュン。」

 そう言うと、クリュンはあからさまに喜んでいる。

「やれやれ、案外隅に置けないわね・・・。」

「ん?なんか言った?」

 良く聞こえなかったが、「独り言よ」とはぐらかされた。まぁいいや。それより誰かに鍛治の様子見てもらうのも、悪くないな。

 日が昇り出す。吸血鬼は日の光に当たれないため、剣も彫刻刀も後日ということになり、今日は解散になったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ようこそ異世界鍛冶工房へ! 九の字 @um9999

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ