2.レノン

その夜、夢を見た。

見知らぬ街のオープンカフェ。奈々実は通りの見えるテラス席でアイスティーを飲んでいる光景だった。同じテーブルの隣りには、同年代くらいの男性が座っている。奈々実の方を向きながらニッコリと笑う。

「どうもお疲れさま。慣れないことばかりで大変だったでしょ? 僕は、あなたのお世話係りを正式に仰せつかった者です。これから、サポートしていくので、よろしくお願いしますね」

日に焼けたその青年は、話し終えた後もニコニコしながら奈々実の顔を見ている。その青年、なんとなくではあるが、どこかで見た気もする。それよりも、相手は奈々実のことを知っているような口ぶりだった。そして、夢であるはずなのに思考が鮮明なことが奇妙でもあった。

「でも、まだ完全にリンクしてないみたいですね。違うトレーニングも必要かな・・・」

青年は顎に手を当てて考え込む。しばらくすると納得したようにポンと右拳で左の掌を叩き、また話し始める。

「まずは、僕に向かって今何か話しかけてもらえますか?」

「えっ? えーと、あなたの名前を聞いてなかったような・・・」

それを聞いた青年は一瞬顔を引き、訝しげな表情をした。

「あれ? もう忘れちゃったんですか? まだ回路が不安定だからか・・・。まあいいや。改めて自己紹介します。レノンって言います。今度は忘れないでくださいね」

「レノン君・・・そういう名前なんだ・・・。」

奈々実はそう言うとレノンの顔をじーっと見つめる。見てくれはまあまあだが、この顔には1ミリもレノンという要素は無い。

「ん? 何か失礼なこと考えてますね? さしずめ、顔と名前がマッチしないとかなんとか、そんなところでしょう?」

図星だった。というか、他の人にもそういう風に思われているという事なのだろうか。

「まずは、何かあったとき、僕を呼び出す方法を教えましょう。僕の顔をイメージしながら、レノンと7回唱えてください」

「7回も?」

「はい。なんて事ないですけど、奈々実さんの名前から設定の仕方を思いつきました。ダジャレみたいなものですよ」

本当にダジャレである。この青年、単純なのかもしれないと奈々実は思った。

「7回唱えてもらえれば、僕はあなたの意識の中に出てきます」

意識の中に出る? その意味が理解できなかったが、ふーんと軽く奈々実は頷いた。それと、今後この青年を呼ばなければならない必要性があるのか疑問だった。が、その疑問に先回りするような形でレノンは続けた。

「今後、奈々実さんに何かしらの形で接触して来ようとする連中が現れるでしょう。ですが、そうなったときのために、既に手は打ってあります。まあ、その時が来れば分かりますよ」

はあ、とだけ奈々実は答えると、そこで夢は終わった。


目が覚めた。随分と具体的な夢だったが、そういう事もあるだろうと簡単に納得して起きた。窓際まで行きカーテンを開ける。

(今日も暑くなりそうだな・・・)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

P.G.U(仮) 葉月 とに @junobloom

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ