星の都
上山ナナイ
第1話 どこでもない国
どこでもない国。回る風車。科学を操るエーテルの吹きすさぶ風。魔法の行方。遥か彼方見渡す星の都が支配する夢のような空。
地上。力の門。並ぶ幾千もの都と白い塔。海に点在するアホウドリのフンで出来た島。地下への死へと向かうエレベーター。赤い血文字「助けて」帰ってきたものは誰もいない。
*
滅びた世界で独り言が聞こえる。
「あの女行っちまいやがった。あのエレベーターに。死んでしまうのに。俺たちはみんな死んでしまった。」
エレベーターの前で死体が並ぶ中、血塗れの死にかけの壮年の盗賊が言う。
地上のあまたの屍を超え、イグニスと言う名の女は地下に眠る殺戮の天使を追って、赤いエレベーターを使って向かった。
「皆殺しだ。」
殺戮の天使はイグニスの前で事も無げに言う。イグニスのコートは血塗れで赤い。色素の薄い胸は裸であり、手は長い鎖で繋がれ、片手に血塗れの剣を持ってる。
「殺しにきたぞ。創世主よ。光あまた見渡す神よ。」
激しい戦闘が繰り広げられる。神の代理人の殺戮の天使は剣を振るい、手のひらに宿る滅びの風でイグニスを吹き飛ばそうとするが、イグニスはそれを避ける。滅びの戦いの中を生き抜いてきたイグニスはもはや人造人間であり機械で肉体を強化してるため、あらゆる攻撃が効かない。彼女は不死者だ。
「効かないな。どんな斬撃も、神々の光も、あまねく星々の炎も、凍てつく氷も。私を葬ろうとしてももはや無駄だ。神よ─。もはや眠りの時だ。」
神は応える。
「個体の死は、血統の継承と、自己複製によって乗り越えてきた。貴様ら人族は無意味な存在なのだよ。生物における発展のプロセス。この道を逸脱したものは死ぬだけだ。」
イグニスがそれに続く。
「お前を殺して、全てをなかったことにする。」
神の意志が展開する。
殺戮の天使がイグニスの表層思考を読もうとするが、その自分を裏切った『神』に対する殺意は止められない。彼女を一陣の風のように動かした。彼女の一族は国を失っていた。彼女はかつて少女の敗残兵だった。いま国と故郷を取り戻すべく、『神』を殺し、その心臓を奪うことで全ての万物を創生する力を得ようとしている。
イグニスは発光し、天使の姿となり『神』との距離を詰め、血塗れの剣を振るい、古代ウイルスを呼ぶ呪文詠唱を行う。イグニスの羽根が散っていった。
「混沌の海をたゆたう星々の凍土に眠る夢見るかつての種よ!いにしえにかつて我らを滅ぼした種よ!今はひるがえりて我らの祈りに応えよ!この常闇の中に集いて、我らに逆らう万物全てを滅ぼすものを打ち砕け!」
その瞬間幾千もの白い貫く羽根が散り、神を天空のはるか彼方向こうへと吹き飛ばした。
それから世界が終わろうとする最後の5分間が経った。そのエレベーターを登り、地上にどちらの天使、否、神が行ったのかはわからない。世界は生きていた。人族は復興したと時の吟遊詩人は歌う。「我、神々の音の調べを聞くもの哉。みはるかす美しき、この星の都の彼方を。一度地に落ちし、都、『神』の創成の力で再生せり。」
最後に地上にはどちらともつかぬ羽根が落ちていた。
星の都 上山ナナイ @nanai_tori
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