記録盤 No.XXX
【チャプター・047/049 色々な事】
──が確かに起こった──起こった、が、媒体の容量は残り少ない。
語るべき事は他にも在り──想像の余地とやらは、大事である。
そう言う事にして置こう──お分かりか?
宜しい──さてさて、
【チャプター・048/049 『大変ご迷惑をお掛け致しました』】
──
──目覚めて瞼を開けるよりも早く、そんな声音が耳へと届いた。
聞き終えの在る様で無い声だ──そう鳴いていていた“彼女”のものでは断じて無いのだが、全く知らないものでも無い。確かに聞いた、覚えが在るが──
──……一週間だ……いい加減に寝飽きただろうブラン兄さん……──
今一思い出せない其の内に、耳の間近で囁かれれば、嫌でも起き上がり、慄いてしまう──一度、二度と、瞼を開閉した後に、やっと状況を理解し始める。
〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉の眼前には、一体の少女人形が座っていた──光沢の無い純白の巻き毛/三白眼でも凛々しい美貌/小柄で精悍、ドレスが無ければ分からない女型──それが〈末母〉の姿の〈
──
と、自身の口元に首を宛てがい、腹話術でもする様にして、〈末母〉はもう一度鳴き声を発する──今度のそれは瓜二つ、いや、全く同じ様に聞こえており、それが殆ど解答だったが、“彼女”は容赦無くと言葉を紡ぐ、
──……そろそろ解説が欲しいかと思って……さぁでは何から話そうか──
そうして〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉はネタばらしをされた──即ち全ては
そして残すは只一つ──彼氏の今後に関してであり、
──君はお尋ね者なんだよブラン兄さん……全ては君の所為と成った──
「──…………──」
──予定の通り……では在るけれど……上の姉さんが煩くてね──
「──…………──」
──計算外が嫌いな人で……いや別に人では無く……まぁ性質なのさ──
「──…………──」
──大々的に喧伝している……死者は零だが……皆相当お冠だからね──
「──…………──」
──〈啓示板〉とか見て見るかい……凄まじい掌返しだよ全く……──
「──…………──」
──或いは火に油を注ぐ……かな……何にせよ……計画通りには違いない──
「──…………──」
──不純な連中が取り除かれ……市民が一つに纏まった──
「──…………──」
──素晴らしい事だよ……ねぇ……それだけは確かにそうだと言える──
「……──それで? 結局俺はどうなるんだ?」
──…………──
その大半を、〈ブラン(ドン)・ベルゲン〉は聞き流していた──単独では物言わぬ〈
「お尋ね者でも功労者、だろう? 何か優遇はしちゃくれないのか?」
例えば〈猫〉を蘇らすとか──せめてもの餞別を授ける
──功労者でもお尋ね者さ……君も分かっているだろう‥…坊や──
それが叶わない願いであるのは、口に出す前から知っており、
──『極刑』だよブラン兄さん……ちゃん付けの方が……良い……そう──
──〈
──上の姉さんは怒り狂っている……次の姉さんも良い顔はしまい──
──〈
──いやまぁ半分は嘘だとも……君の趣向に従ったまででね──
──……気付かれてないとでも思っていたと……本気で……──
──……正直驚いたけれど気を取り直して……だ──
──ブラン兄さん……君は死んだ事になっている──
──情報的には……だがね……命を奪う程の無体はしないよ──
──……〈サキシフラガ〉は……申し訳ないけれど諦めてくれ──
──象徴が必要なのさ……犠牲と言うか……分かるだろう……──
(此処だけはちっとも分からなかったが、他に何が言えただろうか?)
──……で……だ──
──君は〈
──……だが行き先に関しては……此方で指定が無くも無い──
「……指定? 〈
けれど告げられる『行き先』には、些かなりとも驚かされる──即ち、
──それが実は存在する……〈
【チャプター・049/049
「つまりちょっと整理するけど……」
と、彼女は瞼を閉ざし、眉間を指で押さえ付けながらに、
「えぇと……〈アリス〉の緊急停止に、直ぐ様〈ガブリエル〉が駆け付けてくれて、復帰作業を支援した、と……で、子機を通してだから能力は半分以下だとしても、それでも
──概ね其れで間違いない……君はなかなか飲み込みが早いな──
返される言葉へと溜息を漏らす──何て馬鹿馬鹿しい話だと、
「──……だから湯浴みも出来なかったし、皆は其処へと放り込まれる……機械よりも、余程安価な子機として、ね。で、ついでに言わせて頂きますと、〈サキシフラガ〉はあの
──……迷惑を掛けたのは間違いない……君に対しては個人的にも──
「えぇ分かっている、
だから、そうさせて──貰うんだからっ」
等と言うが早いか、椅子から飛び降り、
──……酷いね全く……幾ら何でも……もう少し丁寧に遣るものだよ──
なんて事が在る筈も無く、そのままの体勢にて喋り続ける──“彼女”の様子は、また別の意味で心臓に悪く、何とも嫌な心持ちとなったけれど、
「ンン……別に? 自分達だって似た様な事をしたじゃないの」
胸を張って言い返そう──それこそ、もう少し丁寧に遣るものだ、とも、
──……〈
「それは私に? それとも彼に?」
──言うまでも無い……君は未だ子供なのだから……だが……──
そこで人差し指が伸ばされるなら、示す先の机の上には、真鍮合金の
──……考える事なら分かっている……それが本当に望みなら……ね────
──────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────そうして路面機関車が停止すると、開扉と同時に、たった一人の乗客が乗り込む──座れるかどうかは、何時だって時間帯次第ではあったけれど、今日に限っては心配無用だ。中には誰一人として乗っておらず、時刻は深夜零時過ぎだ。本来であれば、こんな夜更けに機関車が奔るなんて、考えられない事なのだが、今日は特別と言う訳だ──即ち、/今から〈
閉扉が成され、路面機関車が走り始める──
また〈末母〉曰く、〈
想えば此処には既知しか無くて──ずっと出たいと思っていたが、安寧の内に踏ん切りは付かず──だから此れは良い
それでもまぁ少々、贅沢を言わせて貰うとするなら──と、他に遣る事も無い侭に、思案へと耽っていた所で、急に路面機関車が停止した。他に乗る人間は居ない筈、と、訝しんでいる其の内に、新たな乗客が顕れる、
「
その最初の一体の姿には、純粋な驚きを感じてしまった──〈フェリシア〉、と、そう呼び掛けて、それが別の〈猫〉だと気付く。白い毛並みに美しい肢体は、“彼女”に瓜二つではあったけれど、瞳の色の向きが違う。右眼が緑で、左眼が青で──ついでに妙に人懐っこい。彼氏が何かを言うよりも早く、その膝上に乗るならば、頭を擦り寄せ喉を鳴らす──まるで見知った相手かの様にだが、自分は“彼女”(だと思うけれど、間違っていたら申し訳無い)の名すらも知らないのだ──奇妙な申し訳無さが込み上げて、退かそうかと悩んでいた所で、
「嗚呼全く……一応は私のなんだけどね。〈姉妹〉の匂いは分かるのかしら?」
続いて顕れた乗客には、別の意味で驚愕した──見知った存在では在るけれど、始めて出逢う相手だった。既知と未知とが混濁し、後ろめたさと、秘めたる好意の影響が、挙動不審な態度を取らせる──一人と一匹が乗り込んで、路面機関車が運転を再開する、それまでに、彼氏は一言も喋れなかったけれど、彼女にしても事情があるのか、何とも言いたげに視線を反らせてから──不意にニッコリと笑みを浮かべ、彼氏の前に向かって来ると、片手をさっと取り出して、
「まぁ、その……私は貴方を知っている、とか……他にも色々、言わなきゃならない事が在る、気もするけど、さ……えぇと、そう、正式な奴はまだだから」
告げて来る態度は見知らぬ者であり、あの人形とはまるで違った別人で──嗚呼、と、彼氏は思わず吐息を漏らす。どうやら〈
「ブランドン……ブランドン、ベルゲンだ。ブランとでも、呼んでくれ」
「……オリヴィア・ヘイリング。他の名前は、まぁ、追々……ね?」
初対面だけれど、そうでは無い──微笑みが、握手と共に浮かび合って──
【チャプター・XXX/XXX 〈
──そうして百年の歳月が過ぎ、公に成る時が来たけれど、彼氏と彼女がどうなったのか/此処から先はもう百年後だ──とは言えしかし、その時には、全てを語る
そう言う事にして置こう──つまり、こう言う事である。
FIN
グランド・マザァ・ハック・ショウ GRAND MOTHER HACK SHOW 木野目理兵衛 @avalon5121
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