第11話 そして、僕は鳥になる
あの日、おじさんからきっともう会うことは無い。そう告げられ別れた。
あのあとの事と言えば、主にYouTubeなんかに代表される無料動画コンテンツで、検索すると学校名で直ぐにヒット。
他にもコメントが入れれる動画サイトでは、まぁ面白い程にコメントが溢れ、祭り状態になっていたようだった。
と言うのも、入院期間が2週間、その間に飽きられた。そんな感じだった。
謹慎が明け、僕は復学することができた。それまで一切の付き合いの無かったクラスメイトは、腫れ物でも扱うように近寄ろうとはしてこなかった。
ただ、以前の排除的な疎外感はなく、恐れに近い何かを持っているようだった。
奴等の一人の彼女は喰って掛かろうとしたが、ひと睨みで何も言えず、その後も近寄ろうとはしてこなかった。
むしろ、上級生や、他のクラスの知り合い、友人が増え、翌年のクラス替えが待ち遠しくなるほどだ。
当の奴等は全員無事退学。一家は逃げるように県外へ転居。
その後のことはよく知りはしない。親が失職しただのとかは噂で聞くも、本当かは不明だ。
退屈な授業中には、放課後どこいこう、上級生の人に誘われてたな。とかそんなことを考え、平穏な生活を送っている。
ただ、言えるのは、こんな日常がどうしようもなく普通では無かったこと、その障害を乗り越えた事、全てが僕に『自由』だと教えてくれている気がする。
例え、あの反抗が失敗したとしても後悔は無かっただろうとも。
失敗したとしても、学校を辞め、訴訟すれば良かったわけだし。
だから、どちらにせよ勝ちは勝ちだったんだろう。死という選択肢以外は、逃げても勝ちを拾えたはずだと。
何かを達観するには若輩者であること、社会経験が無いこと、それらを踏まえても『死』以外は勝ちを見いだせるんだ。と、そう考える。
2学期の末には進路希望を聞かれ、将来の進むべき道を考えたとき、脳内に浮かぶのは、別れ際に見たおじさんの寂しそうな笑顔だった。
何が出来るのか、そして、何を目指せば良いのかそれを見つけるために『進学』を希望しプリントを提出する。
目指したいのはあのおじさんのような事。
出来るなら、そんな道が開けることを祈るように空を仰ぐ。
鳩が冬の空を低く飛びながらビルの隙間へ消える。
何を見つめ、どこにいくのか、まるで今の僕と同じに見える。そう考えた時、そうか、僕の思考は鳥になったのか。
そういう思考がなぜだか、無性に心が踊らせた。
あぁ、今僕は鳥になる。とーー
完
そして、僕は鳥になる 今澤麦芽 @bakuga-imasawa
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