DEVARA

宇山遼佐

プロローグ


 商社ビルの玄関口にあったダンボールが爆発した。白川昌典しらかわまさのりは死んだ。

 が、目を覚ました。

 痛みはない。頭は普段よりむしろ冴えている。視界はやけにはっきりしている。手術室──というより、研究室や工房といえる場所にいた。

 あたりを見回す。私服の上に白衣を着た男がいた。年齢は六〇ほど、中背で、布袋腹のエビス顔、人の良さそうな小さい丸目、団子鼻、こざっぱりとした白毛まじりの髪を右に流している。

 男は白川のほうを見た。目覚めたことに気づいたようだった。

「起動したか、28号」抑揚なくいった。

「にじゅうはちごう?」白川は繰りかえした。唇が動いている感覚がなかった。

「そう、AHW(Armored Humanoid Weapon)−28号。おまえの型番だ」男はいった。なんでもないといった調子だった。「おまえは爆心地のすぐ近くにいたにも関わらず、身体のみが欠損していただけで、脳髄はほぼ無傷だった。そこですぐさま脳髄を移植し──ああ」小さい目を見開き、はっとした表情になる。「つまるところ、おまえはサイボーグとして蘇えったわけだ。おめでとう」

 わけがわからなかった。白川は自分の身体を見た。

 すでに人間ではなかった。

 手も足も、機械の骨格がむきだしになっている。胸のあたりにはラジエーターのようなものがある。生殖器はない。

 老人は白川の目の前に鏡を差しだした。見る。顔もヒトの姿をしていない。怪獣映画の怪鳥じみた形をしていた。頭はやや平たく幅広い。耳はヘッドホンのようで、口は鉄でできた恐竜の顎といった具合だった。目元には──平たい前頭部に隠れて目立たないが──サングラス状の逆三角形がある。眼らしかった。鼻と眼球はない。丸みのある後頭部だけが人間らしかった。

 怪物だった。

 叫ぼうとすると、鉄の顎が薄気味悪くひらく。舌もなかった。

「悲観するな。人生は悲劇で喜劇だ」老人──峰村文三みねむらぶんぞうはいった。「お上は第二の人生を歩むおまえに新しい名前もプレゼントするそうだ。まあわしには理解できん趣向だがな。おまえのコードネームは〈デヴァラ〉、〈デヴァラ〉だ。『神でもあり悪魔でもある』という造語だそうだ」

 峰村はつまらなさそうに鼻を鳴らし、ふたたび作業にもどった。

 ヒトとして生まれたかれは、肉塊として死に、機械仕掛けの怪物として転生した。

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DEVARA 宇山遼佐 @Uzan_Arsenal

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