Draw Dream 6
その日はまぶしいほどに快晴だった。透花はノートとワークを広げる。真知が近寄ると、ノートを抱えて逃げるように美術室から出て行った。
「透花」
真知は透花を呼び止めた。
「透花、描いた絵、見せてよ」
「そんなんじゃないよ」
透花はそれだけ言って足を動かす。
「透花、私、透花が絵を描き続けてくれればそれだけでいいよ」
真知の言葉で、透花は止まった。
「実はね、透花が美術部に入って全然絵を描かないでいるの、ずっと心配だった。仮入部の時だって、すごくさらさらと綺麗な絵を描いていて、何より、透花自身がすごく楽しそうだった。
でも、今の透花見てると、もしかして私たちが誘ったから嫌々入ったんじゃないかって、ずっと不安だった。部活中、窓の外見ているか勉強しているかだし、そのうち透花に何にも聞いていないのに美術部がつまらないのかなって、決めつけそうになって。他の子たちは好きな人のことばっかり見ているって話し出して。大概のことはちゃんとやる透花だからなおさら気になって仕方なかった。
だからね、すごく勝手だけど、美術部じゃない、他の人たちに相談した。そうしたらね、絵を見せたくないだけで絵を描くことや美術部員であることは嫌じゃないんだってわかった。それだったら私、すごくほっとする。
透花、なんだっていいよ。透花が楽しく絵を描いていさえすれば、私、それだけでいいよ」
透花は、少しだけ顔を上げた。
「真知……」
透花は、真知のほうをちらりと見た。うっすら涙を浮かべていた。
「私ね、漫画家になりたい」
透花は、小さい声でそう言った。その言葉は、はっきり聞こえる。
「だから、まず趣味で漫画を描こうと思った。家で描いてもいいんだけれどさ、それだと授業中とか眠くなっちゃって。それに、ここの方が勉強になるんだよね。実際の人間が動いてくれているから。ネットの動画とか見てると通信制限来ちゃうけど、ここならテニスの動きもタダで見られるでしょ。さすがに、リアルのタトゥーが見られるとは思ってもみなかったけど」
真知はあんぐり口を開けていた。
「でも、漫画も絵、だよね?」
「見られるのが怖かった。水彩画とかならみんな褒めてくれる。それに、美術部の活動ってやっぱり水彩画とか油絵でしょ?
みんなも普段から漫画やアニメを見ているだろうけど、そんな中で、ましてや美術部の部活中なのに漫画描いてて、私の描いた漫画を見せてどんな顔されるか不安で仕方なかった。そう思うと、隠す癖がついちゃって……」
透花の目から、涙がボロボロあふれていた。
「……よかった」
真知は一言、そう答えた。
「いつか、見せて」
真知はその一言だけ付け加えた。透花は、無言で頷いた。
Draw Dream 平野真咲 @HiranoShinnsaku
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