聖夜の雫
「ハロー。メリークリスマス。」
「メリークリスマス。」
今日、家族と交わした言葉はこれだけだった。それ以外、俺は自分の部屋に篭ったままであった。俺は、どうしてこうなのだろう。生きているだけで、苦しくなる。辛くなる。こんな人生、いっそのこと、もう終わってしまえばいいのに。そうとさえ、思っていた。
「俺だって。いつかはメリークリスマスを。」
太陽の降りた暗い部屋で、ココアを口付けながら、こっそりと呟く。愛とは、なんだろう。恋とは、なんだろう。自問自答を重ねる日々。透明人間と呼ばれたこともあった。魅力がないと言われ続けた人生だった。だが、何かを変えたい。そう思い、数年前に創作を始めた。
「今年のうちに何か形にしてやろう。」
俺は決めた。なんとかして、この物語を完結してやろうと。愛とは、恋とは、それに秘められた夢のようなものとは。俺は、何としても掴みたいというものを人生で初めて手にした。そんな気がする。
「たぶん、あの娘は恋人と一緒に過ごしているんだろうな。」
「あいつも、彼女持ちだったっけ。」
結局、孤独というものは人を締め付けるものだ。強く、厳しく。俺だって、本当は孤独なんて嫌いだ。だが、どうしても人というものに慣れない。特に女の子という生き物はそうだ。世の中の男性には、いわゆる“女性恐怖症”というものを持っている人がいるそうだが、俺はおそらくその類だろう。しかも、“男性恐怖症”というものも同時に持っているのだからタチが悪い。
「コンピューターくん、君に意志があったら、俺をサポートしてくれるかい?」
話しかけても、そのパソコンというものは答えてはくれない。
「君を憎みたい。本当は。憎んで、どうにかなるのなら、君が大っ嫌いだ。そう俺は言うだろう。」
暗闇に、男の声が傾斜する。聖夜は、あまりにも残酷だ。ひとりぼっちの学校戦士を無言で脅迫する。それが聖夜ってものだ。
「嗚呼、どうしよう。あの子に好きって言えれば。」
俺は、誰かの大切な愛を奪おうとしている。見つめ合い、口付けを交わし、身体を重ね合う。そんな夜を過ごした二人を、引き裂こうとしている。孤独が好きなんて、表では言うけれど、本当はそうじゃない。ほんとは、誰かのぬくもりが欲しくてたまらないのだ。
クリスマス・イブ、外は白い雪の夜。独りで食べるカップヌードル。俺だって、本当はチキンが食べたい。家族とでも構わない、誰かと一緒にご飯を食べたい。だけど、つまらないプライドがそれを許さないのだ。いい加減にしろ、自身を責め立てる。
「雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう・・・」
ヒットソングを口ずさむ。もう夜明けはすぐ其処まで来ている。あとは、それを掴むだけ。根拠のない自信。それでも、今の自分を奮い立たせるには十分すぎた。
俺は立ち上がった。立ち上がって、充電中のスマートフォンを素早く机から奪い取った。言おう、今夜、ここで。
「明日、いつもの欅の木の下に来てほしい。」
やっと、言えた。やっと、始まった。俺の、俺だけの、誰も知らない物語。孤独なイブに、恋という名のロウソクを。グレイ色の青春に、ローズ色の彩りを。
俺を始めよう。この場所から。たとえ、ダメだったとしても、それはそれでいい。いつか、きっと風が導いてくれるだろう。考えるより、まず動け。好きだ。好きだ。好きだ。叫びたい。君に向かって。
白い雪に、混じる小さなサンタクロースの声。God only knows...
ショートショート集「My World」 坂岡ユウ @yuu_psychedelic
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