第3話
と言うか、彼が私を押しながら全力で走っているのです。
――危ない!
私はこけそうになるのを必死に踏ん張っていました。
私はスケボーはやったことがありませんが、長年スキーをやっているので、バランス感覚には自信がありました。
そうでなければとっくにバランスを崩して、転倒していたことでしょう。
「おい、危ないぞ。止まれ!」
しかし彼は止まりませんでした。
そのまま私を押し続けました。
そのうちコンクリートの部分がなくなり、庭と言うか硬い土の上に乗りました。
その先には何本かの木が生えていました。
そして二本の木の間を抜けようとした直前、何か光るものが見えました。
ほとんど本能と言うか条件反射で、私は思いっきりかがみこみました。
そんな動きに彼がついてこれるはずもなく、結局二人ともその場で転倒してしまいました。
「いって。急になにすんだよ!」
彼が吼えていましたが、私は無視して先ほど光ったものの元へ歩み寄りました。
そこには高さにすると、ちょうどスケボーに乗った私の首くらいのところに、ピアノ線が張ってありました。
結論から言いますと、彼は警察に逮捕されました。
容疑は殺人未遂です。
どうやら私から聞いたバイクの事故からヒントを得たようで、私が大怪我をするか死ねばいいと思っていたようです。
そして私がピアノ線にぶつかった後で自ら警察に電話をし「あんなところにピアノ線が張ってあるなんて気がつかなかった」と言うつもりだったのです。
もちろん会社は大騒ぎになりましたが、最近ようやく落ち着いてきました。
それで、実は私にはあの同僚以外にも、もう一人仲の悪いやつがいます。
逮捕された同僚に関しては、私以上に向こうが私を嫌っていましたが、この場合は逆で、向こうはなんとも思っていないのですが、内心で私のほうがその同僚のことを憎んでいるのです。
ですから会社の人間で、そのことに気づいている人は誰もいません。
私はそいつに突っかかったりしませんから。
いつも何事もないかのように接しているのです。
そしてもうすぐ冬がやってきます。
そしてここだけの話なのですが、私はそいつをスキーに誘うのが、楽しみで楽しみで仕方がないのです。
終
首狩り ツヨシ @kunkunkonkon
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