第2話

わざとみんながいるところで何度も大きな声で誘うので、当然のことながら上司の耳にも入りました。


「今までのことは置いといて、これからは君と仲良くやっていきたいんじゃないのか。会社としても、そうしてもらえると助かる」


そう上司に言われて、私も観念しました。


業務命令となれば仕方がありません。



その週の週末、彼に連れていかれたのは郊外の廃墟のようなところでした。


けっこう広いところです。


「俺はいつもここでやっているんだ」


その場所は、前は何かの工場だったところで、建物は残っていませんが土台のコンクリートはそのままで、たしかにスケボーをやるにはいい場所に見えました。


「じゃあ手本を見せるから」


彼は私にヘルメットや保護具を渡すと、さっさと滑り始めました。


そして私が防具をつけ終わったころ、わたしのところにやって来ました。


「やってみてよ」


「やったことないんだけど」


「大丈夫、大丈夫。俺が押すから」


私がスケボーに乗ると、彼ががっちりと私の腰の辺りを抱え込みました。


「それじゃあ、行くぞ」


掛け声とともに彼が私を押し始めました。


「そーれっ」


ゆっくりだったのは、最初の短い時間だけでした。


あっと言う間にスピードが上がり、ほぼ全力で走るぐらいの速さになりました。

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