後悔と懺悔と

桜々中雪生

後悔と懺悔と

 涸れるほどに泣いた。もう、こんな風に誰かを焦がれることなどないと、潰れそうな胸を強く握りしめた。

 失ってはじめて気づく。どれだけ優しくされていたか。どれだけ大切にされていたか。そして、どれほどのことをしてしまったのか。

 携帯にメッセージを送る。「自分が何をしてしまったのか思い知った。一度、きちんと話がしたい」

 それに返ってきた答えは、


「もう話すことは何もない」


 息が止まった。あぁ、何をしても、怒らせてしまっても、笑って許してくれていたのに。許されないことを、してしまったのだ。

これから幾度、あの人のいない夜を、日々を過ごすのだろう。あの人が置いていった思い出を霞む視界に揺らしながら、指先が、全身が、小さく間断なく震えるのを止められない。


 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。


 あの人に届くことのない言葉を、ひたすらに紡ぐ。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。これは、罰なのだ。あの人を傷つけ、踏みにじり、自分のモノにしようとした。だから、罰を受けねばならない。


 誰にも届かない無数の懺悔は、暗い部屋に漂い続ける。


 後悔したってもう遅い。あの人は、もう帰って来ないのだから。

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後悔と懺悔と 桜々中雪生 @small_drum

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