まだまだ先へ進めないニューゲーム

ちびまるフォイ

なんてこだわり続けられるゲームなんだ!

「よし、友達から借りたこのゲームを早速やってみよう。楽しみだなぁ」


ゲーム機本体にディスクを読み込ませると、ムービーが始まった。

悩み兄はそれを見て慌ててテレビのコンセントを引っこ抜いて頭を抱えた。


「ぐっ……! このムービーは見たほうがいいのか!?

 きっと見たほうがこれから始まるゲームへの期待感は増すはず。

 いやでも……見てしまったがために、どんなゲームなのか想像がついて

 かえって楽しめなくなるという可能性もあるぞ……ぬあああ!!」


日が沈むころ、悩み兄はムービーを見ることを最高裁で決定した。

テレビをつけなおすと、すでにムービーは終了しタイトル画面になっていた。


「あ……ムービー終わってた。まあ、いいか」


悩み兄はスタートボタンを押してゲームを始めることに。



『あなたの名前を入力してください』



「ふぬぁぁぁ!!」


真っ先に表示された画面で悩み兄はコントローラーを神棚において、

考える人と同じポージングで悩み始めた。


「名前……これはきっと主人公の名前だろうな。どんな名前がいいだろう……」


主人公らしい3文字のカタカナにすべきだろうか。

いや、ゲームの世界観によっては合わない名前になるかも。


ネタっぽい名前にするのはどうだろうか。

アカウント名ぽい名前にしてみるのは。

自分の本名を入れて没入感をあげるのもアリだ。

漫画の主人公とかの名前でifストーリーを楽しむのはどうだ。 ...


「くっ! こんな重要な決断、おいそれとできるわけはない!!」


悩み兄はまず自分が候補に挙げた名前をすべてリストアップ。

動物占いと姓名判断と粒子力学とフレミングの法則を用いてさらに絞る。


そのうえで、候補の主人公名にしたときのゲーム内容を脳内シミュレーション。


いくつものチェック工程を経てついに主人公の名前を入力し終わった。

その直後。



『サーバーを設定してください』


 サーバー01:アース

 サーバー02:ガウムンド

 サーバー03:キャッスル



「ぷぎぃぃ!!」


悩み兄は再び思案モードへと切り替わった。


「くっ……サーバーによってはきっと今後のゲームに大きく影響するだろう。

 この決断は……重いぞっ……!」


悩み兄は絶対に必要以外の情報を見ないでネタバレを避けつつ、

各サーバーにどんな特色があるのかを、開発者の名前までさかのぼって調べた。


辞書ほどのレポートができると、悩み兄はやっとサーバーを選択した。


「うん。俺にはこのサーバーが一番ベストだな」


サーバーを選択すると、画面に初めてロード画面が表示された。

ついにゲームの世界へ飛び立てる。



『画面の明るさを設定してください』



『あなたのプレイヤー技術を設定してください』



『コントローラーの感度を設定します』



『操作しやすいボタンタイプを設定してください』



『言語を設定してください』



『音声を設定してください』



『字幕を設定してください』



『あなたの好きなタイプを教えてください』



『あなたが最初に飼ったペットの名前を教えてください』



『画面に映るおじさんの画像をすべて選択してください』



『リフトをのりついでいけ!』



『暴力描写のON/OFFを設定してください』




「ぐはぁぁぁ!!」


悩み兄はついに吐血し、病院へと担ぎ込まれた。

医者がいうには許容量を超えるほど脳を使ったことによるものだと診断。


「あんなにたくさん悩まないといけないことが出てきたもので……。

 いろいろ考えているうちに頭がいっぱいになってしまいました」


悩み兄は家に帰る道すがら、ゲーム内の選択肢で頭はいっぱいだった。

とにかくひとつずつ悩んで考えて調べて、選んでいかなければならない。


「ただいま……」


「お兄ちゃん、おそい! なにやってたの!」


「悩まな妹。お前こそどうしてここに? 実家に帰ったんじゃないのか」


「お兄ちゃんが倒れたって聞いて来たんだよ。

 でも元気って聞いたからホント損しちゃった。ってそれより!」


悩まな妹は悩み兄の首根っこをつかんでつけっぱなしのテレビの前に連行した。


「お兄ちゃんがずっとゲームしてるからテレビ見れないんだけど! 消しちゃうよ!」


「ま、待ってくれ! 今消したらセーブしてない!

 設定したすべての項目が反映されなくなってしまう!」


「設定?」


悩まな妹はゲーム画面を見て「ああ」と納得した。


「お兄ちゃん、昔から悩みすぎるからね。

 コンビニのお菓子ひとつ買うのに、原材料の由来まで調べ始めるし」


「悩まないお前とはちがうんだよ」


「いいから貸してよ、えいっ」


「おいやめろ!」


悩まな妹はコントローラーを奪うとあっという間に設定を進めてしまった。


「ああああああああ!!!!」


「お兄ちゃんは悩みすぎなんだよ。案ずるより産むがやすしって人知らないの?」


「お前……この選択がのちのちの重要なものになるかもしれないんだぞ!?」


「しーらない」


悩まな妹はひょいとどこかへ行ってしまった。

取り残された悩み兄はそのままの設定ゲームを始めた。


幸いだったのは、これまでの選択がそこまでゲーム内容に影響しなかったことだった。


「おお……これをするゲームなのか……!!」


悩み兄はすっかりゲームにハマって昼夜問わずにゲームをし続けた。




しばらくして、ゲームを貸した友人がやってきた。


「よお、悩み兄。前に貸したゲームやってるか?」


「うん、言っていた通り本当に面白いゲームだね。すっかりハマちゃったよ。

 それにあのボリューム。自由度が高くて、どんなにやりこんでも先が見えない」


「だろ。いやぁ、喜んでもらえてよかった」


「単純な作業に思えても、やっただけの効果があるからもう病みつきさ!」


「そうだろ、そうだろ」


友人はまるで自分が褒められたように嬉しそうだった。


「で、どこまで進んだの? いまどのあたり?」


「そうだねぇ……」


悩み兄はゲーム画面に思いをはせた。




「今は、髪型が終わったところだよ!!」

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