第92話 ー 完 ー

アムステルダム・スキポール国際空港。到着口から映えるピンクの女の子。


ゆっくりと僕に近づいて来る。


「おーっす。まさ君」


「やあ、まきちゃん」


ピンクの上下の可愛いコーデ。知らなかった。まきちゃん、こんなにピンクが似合うんだ。

少し胸も大きくなった気がする。


「まきちゃん。可愛い」


「当たり前のことは言わなくていいよ」


「胸、大きくなったね」


「それは、余計なこと」


まきちゃんは笑う。


「頭に浮かんでも、そんな言葉、長旅で着いたばかりの女子に言う男、いないよ」


二人して笑う。



「改めて、長旅、お疲れ様」


「いやいや、もう秋深しということもあるけど、エコノミーの真ん中3席丸々使えて、悠々自適な旅でした」


「そう、エコノミー3席使えば、ファーストクラスのように、水平シートにして寝れるしね」

「CAさんも、お客様のご自由に、だしね」


「そういう、おじさんぽいことは、さすがの私もできなかったよ」


「けど、似たような使い方した」


「真ん中に座って、カバンから物を、右に出したり、左に出したり」

「足ものんびり開いて、中央の席で食事したり、映画見たり」


こうやって、ああやってと身振り手振りして説明する。本当に可愛い子。


舌見せて笑う。



「さて、来たね、まきちゃん」


「うん。来た」


「これから、楽しみだね」


「うん。楽しみ」


まきちゃん、とても爽やかな香りがする。

お気に入りのティファニーのフレグランス。



「あー、オランダ。乾いていて爽やかな空気ね。色で言うとトパーズかな」


「トパーズ。丁度11月の宝石だね」

「宝石言葉は、希望」


「そう、幸せの探求」


まきちゃんの髪が秋風に揺れる。



「これが噂のアウディね」


「うん。乗りごごちがすごくいいんだ」


「なんだろう。日本でいう運転席側に乗るんだよね、私。助手席で」

「不思議な感じ、左ハンドル車」


「あれ、まきちゃん、海外旅行3度目くらいだよね?」


「うん。でも自家用車に乗ったことはないよ。素敵ね、この車」


「まきちゃん。営業車だよ、自家用車じゃないよ」



「まきちゃんの体に合うように、ゆっくり席を調節して」


「そう、前の女の匂いがする」


「うん。奈美さん」

「彼女、僕くらいの背丈だったから」


「これから、まきちゃんしか乗らないから」


「さあ、どうだか」


まきちゃんは微笑む。



「まず、どこに行きたい?」


「花市場。最初に花市場よ」



「でも、今の夕刻時間は一番花が少ない時間帯だけど・・・」



「全然、構わない。花市場よ」


「了解」



ーーーーー



「すっごーい! 広い!」


「そう、まきちゃんにも話したことがあるよね」


「オランダは世界の花市場の6割強を占めていて、中でもアールスメール、ここはおよそ4割」

「世界の取引のだよ」


「うん。すごい」


「もういつでもこれるから、ちゃんと朝、見に来ようね」


「何か、今見れるものないかな?」


「セリ落ちた花や鉢物をストックしてる部屋なら結構たくさん見られるよ」

「下に降りて、少し歩くけどいいかな?」


「うん」


「そう、胡蝶蘭を見に行こう。そこのバイヤーさんの倉庫はすごい」

「そんなに遠くじゃないし」


10分ほど歩く。


「わー! すごい!」

「こんなに蘭が、鉢物がいっぱい!」


「うん」


まきちゃんは子供のようにはしゃぐ。

僕のファーストレディ。僕の瞳には、まきちゃんしか映らない。


まきちゃんが急に振り向く。


「まさ君。私まさ君が欲しいから。まさ君しか見えないから」

「愛するし、愛って、守ることだから」


「世界最大の花市場で、二人で約束しよう。いい? まさ君」


「いいよ」



「私、守るから」

「まさくんのこと、守るから」

「まさくんの未来を私に預けて」


「ありがとう。まきちゃん」

「僕もまきちゃんのこと守るよ」


「さあ、何から?」


「・・・」


まきちゃんのような、おしゃれな音葉がみつからない・・・


二人して笑った。


「まきちゃん、こんなにたくさんの胡蝶蘭。すごいね」

「何色に見える」


「せーの、で答えましょ」


「うん」


「せーの!」


「ぴ・ん・く・!」


二人、ハイタッチしてまた笑顔。


僕はピンクに染まったまきちゃんを強く抱きあげる。



そこにあるのは、埋め尽くされた大勢の白い胡蝶蘭。

二人して答えはピンク。


ピンクの胡蝶蘭の花言葉。


”私はあなたを愛しています”



ー 完 ー




I'm falling in love with her, this person who keeps hurting herself

to protect the people she cares about.


この人を愛している。愛している人達を守りたくて、自分を傷つけてしまうこの人を。

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ぬり絵の恋 アンジェラ @anjerbell

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