第91話
「もしもし、まさ君」
「まきちゃん、こんばんわ」
「明後日だね、まさ君に会えるの」
「私、着の身着のままで行くから」
「待ってるよ。何もいらない」
「おっしゃる通り、何もなしに行くよ。ホント」
「オランダ国のイ・ロ・ハくらいは、旅行雑誌でも見て覚えておいで」
「いいよ。余計な情報はいらない」
「何より想像力は知識よりも大切よ」
「まきちゃんの想像力はすごいからね」
「楽しみだよ」
「うん」
「どれくらい、こっちにいられるの?」
「4年くらいかな?」
二人で爆笑。
「まずは3ヶ月くらい?」
「私がいて、まさ君がちゃんと仕事ができるかどうかのお試し期間」
「よく化粧品の宣伝とかにあるじゃない」
「お試し期間、私無料よ」
また二人で爆笑。
「今日、奈美さんと知り合いのミカさんで、ランチに美味しいラムチョップを食べてきたんだ」
「すごく美味しいから、まきちゃんが来た時、真っ先に連れて行くよ」
「あら? 二人の女性とデート?」
「浮気現場に、私と行く?」
「あれ? ダメかな?」
「全然OKよ。現場確認しなきゃ」
「取り押さえは無理だったけど」
「そう、Fix/Open航空券、安く買えた?」
「家計はまだ秘密よ」
「そっへ行ったら、ビシバシやるからね」
「大家さんの野菜料理をたくさん食べて、無駄な外食を減らすの」
「まさ君、エンゲル係数、ものすごく高そうだから」
「まいったな。外食は、一人でいると寂しいことと、口寂しいことなんだ」
「なーんだ。どちらも簡単」
「何?」
「お試し期間が来るじゃない」
二人でクスクス。
「仕事が済んだから、これから奈美さんと食事に行くんだ。彼女の最後のアムスでの夜」
「まさ君、本当に頑張ったね。奈美さんを元気付けて」
「まきちゃんが、愛、にゆっくり気づかせてくれたからだよ」
「離れているのに。すごいのはまきちゃん」
「夕食、楽しんで来て」
「その浮気現場も、取り押さえにしくじっちゃったね」
ーーーーー
「すごーい。大きいー」
「60cm弱くらい、ありますかね」
「こんな大きな舌平目、見たことないです」
「そして、フルーツの入ったソースですね」
「日本でよく缶詰で売っているような」
「さて、ドーバーソウル。どんな味か、お試しあれ」
「えっ?」
「ちょっとソースとミスマッチにも思えるけど? ……でも……」
「味にすぐ慣れますよ」
「肉はよく締まった白身で、繊細かつ豊かな味わい」
「うん。確かに、合いますね。ソースと」
「このシャンパンも、この料理に合う」
「Ruthがプレゼントしてくれたんです。奈美さんのために」
「Thank you, Ruth」
奈美さんはシャンパン片手にルースに手を振る。
「うん。美味しい美味しい」
「僕も初めはびっくりしましたが、ムニエルもいいけど、このソースもいいでしょ?」
「オランダ最後のディナー。いい思い出になります」
「加藤さん。本当にありがとうございます」
「びっくり箱のような街。それを楽しませる魔法使いのような加藤さん」
「いい思い出ができました。一生ものです」
「そして、勇気をくれて感謝です」
「きっかけは森下さんですよ」
「これからです。森下さんへの愛を忘れないでください」
「はい」
「困った時にはいつでも連絡ください」
「運命のなかに偶然はないんです」
「全て必然です」
「だから、全否定じゃなくて、全肯定です」
「一生のうちで、万巻の書を読むより、優れた人物に会うほうがどれだけ勉強になるか」
「奈美さんにとって、森下さんがその人物です」
「はい。そうです」
「ミカさんの彼氏が言うように、不幸は時にその人の偉大さを認識させるんです」
「森下さんは天才です」
「シンデレラ探しの終わりです。森下さん、片方の靴を持って奈美さんを待っています」
「オランダ土産の定番。木靴、でしたっけ?」
二人して微笑む。
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