第6話 試合

ガバッッッッッッッ!!


「俺」は勢いよく跳ね起きた後、両手を挙げてガッツポーズした。


よっしゃあ!!俺の番だ!記憶を見ながらずっと待機してて良かったぁぁ!!


ーー一応人格達は、自分達の記憶を見ることが可能である。


部屋を出た時、宿の主から奇異の目で見られていることに、グリーンは気づかなかった。当然である、昨日、あれだけ上品な振る舞いをした人物と、今大声をあげて出てきた人物が同一人物だとはとても信じられなかったからだ。


いつものノートを確認して、自分の現在の状況を確認する。


昨日はイエローのじいさんか、てかもうミラノ領ついたのか?!じいさんナイス!


着替えて朝食を腹に詰め込む。味わう気など一切ないスタイルだ。


当たり前だろ?飯なんか食えればいいんだから


昨日はイエローのじいさんだったからな、そりゃ昨日の夜めちゃくちゃ上品に食ってた奴がこんなかきこむように飯食ってたら。そりゃ驚くだろうぜ。


目の前にあったベーコンエッグを、切りもしないで口に頬張る。少し溢れた気もするが気にしない。時が惜しいところまで来ている。


宿の主人からの奇異の目は、宿を出るまで続いた。


そして宿を出た途端、グリーンはカミーユと再会する。


カミーユは盗賊達に襲われていた騎士団のリーダーだ。

20代に彫りの深い顔立ちと、金髪が光る。まだ青年、と言ってもいいだろう若者だった。


「おお、これはグリーン殿、お嬢様がお待ちです。よろしければ館へお越し頂きますかな?」


自然に、かつ丁寧な口調でカミーユは相対した。


......助けてもらったとはいえ、一介の旅人にこの扱いは変だな。何か頼み事でもあるのか?


まぁ邪推していても仕方ない。コレットと話をしたい欲が勝り、グリーンはカミーユからの提案をふたつ返事でOKした。カミーユと一緒に来た騎士の馬に乗せてもらったのだが、なんとも乗り心地が悪い。


勿論、元の世界でも乗馬経験はない。


元の時代のような車の柔らかい座席など、馬の鞍に望むべくもなく、なんとか改善できないかなどと考えていると、伯爵邸に到着した。


門を通り、応接室らしきところへと足を踏み入れると、50代くらいであろうか、雰囲気のある紳士と、その側にも同年代くらいの女性。2人とも仕立ての良さそうな服を着ている。この館の主人と、その妻であろうと予想した。


グリーンより名乗った。


『本日はお招き頂き、ありがとうございます。私はグリーンという者です。東より旅をしておりました。旅の途中でこの館のお嬢様が不埒者に襲われているのを見つけ、助けた次第でございます。』


東のより、という言葉に男が反応したのを、グリーンは見逃さなかった。


ここがいい情報が落ちやすい。この世界のことを知るには丁度いい場所だ。


民衆も、クロの問いに普通に受け答えしたという。危険な場所じゃなかったのは不幸中の幸いと言うべきだろうか。


幸いにして、今の自分の格好はそんなに変な格好という訳でもない。上手いこと言って、貴族の子弟とでも勘違いしてもらえればラッキーである。


『これはご丁寧に、私はケイアポリス国、アルノ領が当主アストルフ・ド・アルノ伯爵という者だ。この度は娘を助けて頂き、感謝する。大した出迎えもできないが、どうかゆっくりして言って欲しい、良ければコレットに旅の話などを聞かせてやってくれ。』


私はその答えを受諾し、姫と再会した。


コレットは旅のことを詳しく聞きたがった。


好奇心旺盛なやつだな...


話をしていくうちに、コレットは自分のことも話をしてくれるようになった。


コレットはアルノ家の3女である。


上に兄、姉、姉がいて、生まれた彼女だ。兄は今王都で騎士の仕事をしているらしい。姉2人は既に嫁に行ってしまった。コレットも16という年齢もあってか、婚姻の誘いが既に来ているらしいが、アストルフ伯爵が娘可愛さに全部断ってるだとかなんとか


なるほど、この世界の結婚感は元の世界の中世と特に変化はないことがわかった。


16で結婚適齢期とは少し早い気がしなくもないが、日本でも戦国時代には12で婚姻などがザラにあったらしく、今更おかしな話などない。


話を戻そう、生まれてからずっとアルノ領の外に出たことがない彼女は、いい機会だから、外に出て見たいと、度々父を説得していたらしいのだ。


ちなみに盗賊達に襲われていたのは、家庭教師の家に行った帰りである。


次からは襲撃を免れるために、家庭教師が直に来てくれるそうだ。


また、アルノ領にまつわる話も教えてもらった。


アルノ家には有力な家臣が3家ある。


自分が小さい頃から仕えてくれるカミーユの家、コレットの遠縁のカラドックが当主を務めている家、最後にコレットの父の弟、モードレッドが当主を務めている家である。


モードレッドはアストルフと権力争いをしていたが、前当主の鶴の一声でアストルフに当主が決まった。だがモードレットはまだ当主の座を狙っているらしい。コレットもモードレッドが苦手らしい...言葉の端々からわかる。


武人肌のモードレッドの話は、お世辞にもうまいとは言えず、年頃のレディの興味を引く話などできないのが普通だ。ある意味仕方がないとも言えるかもしれない。


俺はコレットから、旅の話をして欲しいとせがまれたが、物語にある話などを引用したりして、うまくそれをかわした。旅人だと言わなければよかったな.........


この世界、なんと冒険者だとか、戦士だとかあるらしい。


いや絶対そっちって言っておけば良かったんじゃないか?


1時間近くコレットと話をしていると、途端に屋敷内がざわつき始めた。


「どうしたのかしら、屋敷が騒がしい...」


コレットがそう呟く。あーホワイトなら滅茶滅茶耳いいからどーなってるかわかるんだがな。コレットの側に控えていたメイド兼護衛も、その声を聞いて部屋をあけて他の使用人に話を聞いている


話し声から「......が攻めて...」「ここも危ない」などという話が漏れてくる。


まぁ主人の部屋の方に行ってみるか。コレットを連れて主人の部屋に行くと、兵士の声が聞こえた


「報告します!城に軍が接近中!旗印を見るに、モードレッド軍のものと見られます!数は500」


グリーンは、また来て早々に厄介ごとに巻き込まれたもんだと、肩を竦めた。


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屋敷の主人でもあるアストルフは戦慄していた。500もの軍、どこから調達してきたのか。


この領はほかの領と比べても平和である。魔物も大したものは出ないし、一般市民の暮らしもまぁまぁ良い方だと自負している。


騎士は50名ほどいるが、それでも多いのではないかという意見すらあった。


騎士の声を聞いてしまったのか、コレットと、旅人が勢いよく入ってきた。コレットは心配なのか、青ざめている。


モードレッドの狙いは分かっている。私を殺し、領主に取って代わるつもりだろう。


今王国も跡目争いなのでゴタゴタしている。このような地まで知らせが来て、もし援軍が送られて来ても、その頃には全て終わっているだろう。


むしろこのモードレッドの暴挙とも言える反乱は、他の貴族の謀略である可能性ですらあるのだ。もしや、娘を救ったというこの旅人、この者もモードレッドの回し者なのではないか......?!


領主が焦りを隠せなくなっていると、旅人は、何も言わずに私の部屋から飛び出し、走って行った。


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グリーンは興奮しながら家を出た。屋敷のものやコレットが止めようとするも止まらず屋敷を飛び出して駆け出す。


力を試せる。前回山賊を相手にした時は、酷く動きがゆっくり見えた者である。


「前の世界では喧嘩もできない自分がである」


これで、もしクロなどに人格が変われば、どうなってしまうのか。



アルノ邸を飛び出し、まっすぐ騒がしい城門に向かった。


城門にてカミーユに会う

「は?グリーン殿?!一体どうされたのです?ここは危険です!......あなたの腕を見込んで頼みがあります、城主様達とコレット様を連れて逃g」


話を何も聞かず、グリーンは城壁を登った。


城壁を登るほどの身体能力、普通なら一般人よりも喧嘩の弱いとされるグリーンにできるはずもないのだが、そんな様子は微塵も見せない


メリットは1つ、アルノ領へ恩を売ることだ。


強烈に、苛烈に、恐怖されるほどに強い印象を与える。先程の挨拶でこちらに礼節があることを伯爵には証明した。次は恐怖を、こちらを味方につけておくことのメリットを証明しなければならない。


そしてこの戦いに参戦するメリットはそれだけに留まらない。グリーンは知りたいのだ。自分の限界が、だがクロなら自分の思いに応えて戦ってくれる。そんな予感がしていた。


クロになるという確信はしていた。必ずクロになると、あいつはタイミングのいい奴なのだ。必ず来る。


アルノ邸の武器庫から拝借して来た剣の中で一番大きいのを持ってきた。


重い、がクロなら丁度いいと言ってくれると計算した。


「後は...頼む......」


グリーンの意識はゆっくりと闇に包まれた。



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多重人格者の異世界転生 くろこん @kurokonn

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