第18話 裏切者、発見?

「じゃ、行こうか」


 亮がそううながすと、駒子が待ったをかけた。


「あ、ふたりともちょっと待って」


 そして駒子はいったん自分の席に戻り、ふたつの封筒を持って戻ってきた。


「はい、これ。昨日の写真ふたりぶん」


 陽真のテンションが一気に上がる。


「わあ、現像できたんだ!」

「すげぇ! 桐原の父ちゃん、いい感じに撮ってくれてる!」


 急いで封筒を開けて陽真も写真を見てみると、みんないい笑顔で写っている。

 普段は特に写真写りがいいとは言えない陽真も、じゅうぶんに納得のいく笑顔で写っていた。

 亮も駒子も亜子も、みんないい笑顔だ。

 陽真は笑顔で駒子にお礼を言った。


「ありがとう、桐原さん! この写真、宝物にするね!」


 亮も大事そうに写真を封筒にしまう。


「俺もありがとな、桐原! 俺も宝物にする!」


 駒子は、


「うん、喜んでもらえてわたしもうれしいよ。わたしも宝物にする!」


 と、うれしそうに笑った。


「みんな宝物にするって言ってる」


 それがなんだか幸せでくすぐったくて、陽真も笑った。


「いいじゃん、みんなの宝物だ!」

「ふふ、そうだね」


 亮と駒子も楽しそうに笑って、またお腹のあたりがくすぐったくなった。

 こんなに楽しい思いをしたのも、初めてだ。

 友だちとなにか宝物を共有するのって、こんなに楽しいことなんだ。

 この年になって、陽真はそのことを初めて知った。


 駒子と由貴と別れ、陽真たちは学校周辺をくまなく探索することにした。


「とにかく学校近辺がきなくさいのよ。それはわかっているの。だからしらみつぶしにいくしかないわ」


 悪さをしていなくとも、魔族がいれば多少はひまわりチャームに反応があるそうなのだ。だから、それを頼りに邪魔する者を探す寸法だ。

 まずは学校近くの公園から、と、三人は公園の中に入る。


「そういえばさ」


 歩きながら、亮がシルフィに言った。


「遊園地で観覧車に乗ったとき、俺と片桐、ここらへんが黒いふわふわのなにかに覆われているのを見たんだ。それってやっぱり、このへんが魔族に悪さをされているせいなのか?」

「ええ、そのとおりよ」


 シルフィは、厳しい顔つきをしてうなずいた。


「このまま魔族がどんどんテリトリーを広げていったら、被害はこのへんだけじゃすまなくなるわね」

「そうなる前に、なんとかしないといけないね」


 陽真も表情を引き締め、気合を入れた。


「だけど、学校の中ではみんな、困ったことはなくなったみたいだったな」


 亮がそうも言い、陽真もうなずいた。


「うん。校長先生の猫も帰ってきたって噂だし、机がぼろぼろになって何度交換してもおなじようになって困ってた子も、『机がきれい!』って言ってたよね」


 そう。昨日魔族を二匹退治できたおかげか、学校内での魔族のせいでの「困りごと」はどうやら解消されたようだ。

 その点についてはよかったよね、と言いながら三人は歩く。

 この「青空公園」には大きな花時計があり、その周りを草木がきれいにぐるりと囲っている。

 その草木の特にひとけのないところで、ひまわりチャームがファン、ファン、と弱く反応した。


「シルフィ、シルフィ、反応あったよ、弱いけど」


 陽真が小声で言うと、シルフィはうなずいた。


「特に明確な悪さをしている魔族相手でなければ、そんなふうに弱い反応しか得られないのよ。でも、じゅうぶんだわ」

「あそこ、黒い蝶がいるぞ」


 亮も小声である一点を指差す。

 確かに黒い蝶が一匹、二匹、三匹……けっこういる。そしてさらにひとまわり大きな灰色の蝶がその黒い蝶たちになにか指図しているようだった。


「って、……あれ、蝶じゃなくない……?」


 陽真が言うと、亮も気づいたようだ。


「ほんとだ。妖精じゃないか? 羽が灰色だけど」


 ふと陽真がシルフィを見ると、シルフィはこれ以上ないほどに青ざめていた。


「シルフィ? 大丈夫?」


 心配した陽真が声をかけると、シルフィはようやく口を開いた。


「そうよ……確かにあの灰色の羽の彼女は妖精よ……女王様の宮殿に仕えていた……料理番のひとり。そして、わたしの親友の……リーゴット……っていう名前の……」

「えっ?」

「シルフィの親友なのか?」


 思わず大きな声を出しそうになるのを、陽真も亮もこらえる。


「どうして、リーゴットが魔族と一緒にいるの……?」


 シルフィのその問いには、ひとつしか答えが見当たらなかった。

 おそらくここにいる三人の誰もが、おなじことを考えていた。


 シルフィの親友、そして女王様の宮殿に仕えていた妖精のリーゴットが、「裏切者」で「邪魔をしている者」なのだと──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花救人(キュート)~ひまわりパワーで浄化します!~ 苑田愛結 @ousaka38

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ