清掃員
「おい!そこのお前‼︎」
「…………」
男の声を聞いた駒井は、それまでのルンルン気分も消し飛び、真顔に戻り足を止める。
「ご主人様?」
担がれながらキョトンと問いかける女の子。
「……すまん」
女の子を降ろして、何かに謝り出す駒井。
「そのヘルメットにガスマスク。間違いない。お前は近頃この街に出現した例のシリアルキラーだな」
気づけば、駒井たちの周囲を何人もの人間が、剣や斧、槍なんかを構えて取り囲んでいた。
どっちがシリアルキラーなのやら……
そんなの頭にない様子の連中は、ジリジリ駒井に詰め寄る。
「豚マスクがいないのが気がかりだが、一人の今がチャンスだ。狩らせてもらうぞ‼︎」
最初に駒井を呼び止めた男が掛け声をかける。
「待て待て!シリアルキラー?なんのことだ?俺がしてたのはただのゴミ掃除だぞ?」
真顔で答える駒井。
「そうか、なら問うてやる。奴らの仲間じゃないなら『殺人鬼ジェイソン』について答えられるはずだ‼︎奴はどこにいる?答えたら命は助けてやるぞ?」
ジリジリとさらに詰め寄りながら問いかけてくる男。
あと数歩で間合いに入る。
「いやいやいや、知らんて、ジェイソン?そんなイカレたやつ実在するのかよ!?アホなのか?」
真顔で答える駒井。
「とぼけるな!やつが近くにいるのはわかっているんだ!先月の13日の金曜日、やつが現れてから、この地域一帯の犯罪率が跳ね上がった!そして同時期にお前が現れた。やつとなんらかのつながりがあるとしか考えられない」
どうやら男は駒井のことをシリアルキラーで、ジェイソンとやらの仲間だと思っているらしい。
「お前はどこの勢力だ?人間にみえるが、まさか『モンスターズ』か?それとも『サイボーグ』の勢力なのか?」
いきなり謎ワードを連発する男。
「だから知らんて、お前ら会うたびへんな質問しないと気が済まないのか?なら聞くが、そういうお前らどこ中だよ?」
相手に聞くなら先にこちらが名乗る。
喧嘩の基本だ。
「我々は誇り高き、『黄金の王』直属の精鋭部隊。ロイヤルナイツだ!!そして俺がそのリーダー、カインだ‼︎」
バン!と拳で左胸を叩きながら自らを名乗る男。
「知らないわ‼︎大体なんだよ、自分で精鋭部隊とか、名前がロイヤルナイツとか、恥ずかしいわ‼︎聞いてるこっちが恥ずかしいわ‼︎」
食い気味に突っ込んだ駒井。
その目には、いつも冷静な駒井には珍しく、隠しきれないくらいの動揺がみられる。
聞いたのを後悔するくらい、恥ずかしかったらしい。
「なにを‼︎きさま‼︎我々を侮辱する気か!」
今にも飛びかかりそうな体制で、駒井のことを睨む男。カイン。
「侮辱されるような名前つけるな‼︎お前らゴミみたいな人間の処理してるんだろ?なら清掃員とかでいいじゃん?箒やらモップやら持ってるし?」
そんなカインの事を心配して、真剣に答えた駒井。
「もう許さん‼︎問答無用でぶっ殺す‼︎」
だが残念ながら逆効果だったらしい。
カインの突撃を合図とばかりに
駒井たちを取り囲んでいた全員が、一斉に駒井めがけて突撃した。
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