出会い。

「お願いだから……私を捨てないで、下さい‼︎」

なんだ?

と、駒井はどこからか、語りかけてくる謎の声の主を探してあたりを見回す。

「ここ、ここです。」

「は?」

すると、声は、急に現実味を帯びて、駒井の足元から聴こえてきた。

「どうか私を捨てないで下さい。なんでもしますから」

そこには、潤んだ瞳を光らせて、縋るように駒井を見上げる、可愛らしい女の子が、両断された自転車を背負いながら女の子座りで地べたに座り込んでいた。

女の子の年は、見たところ13〜15くらいの中学生くらいで、ボロボロの服に、ボサボサの髪、体のあちこちには痛々しい痣がいくつも見受けられる、見るからに訳ありな見た目の女の子だ。

「〜〜〜〜〜っ☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆」


さらに追い討ちをかけるかのように、これでもかとキラキラした可哀想な瞳を、困惑して正常な判断を失った駒井に向けている。

「あ……ぁ⁉︎」

いきなり現れた、可愛らしい不幸少女と不意に目が合って、言葉を失う駒井、



「私はあなたの物です。あなただけの道具です。だからどうか私を捨てないでください。あなたに捨てられたら私……」

話せば話すほど、みるみる不幸度が増していく女の子。

もう、そこらのお節介好きならどうやっても放っておけないくらいの不幸少女の出現に戸惑う駒井は……



「ウルセェゴミが‼︎」

女の子の顔面にグーパンを打ち込んだ。

「――――っΣ(゚д゚lll)」


見事なフォームから放たれた拳は、女の子の鼻っ柱から顔面にめり込むように一切の手加減なしに打ち込まれた。


仮にも成人男性の全体重の乗った、全身のバネを使って思いっきり振り下ろされた拳だ。


それも、駒井より背の低い位置にある、駒井より小柄な、駒井の顔を見上げるように、背筋をピンと伸ばした姿勢の、無防備な女の子の顔面に、なんのためらいもなく打ち込まれたのだ。

「……っ⁉︎……っっ⁉︎⁉︎」

衝撃の逃げ場はなく、ダイレクトに顔面から背骨を通して首、背中、腰、骨盤、へと、ダメージを余すことなく全て受け取る女の子。


ちなみにここまでスローモーションで3カメほど使い解説している状況だ。



「うっ……うぅ……いぃぃい‼︎‼︎⁉︎」


そして一秒ほど、メリメリとめり込まされた拳が離れた女の子の顔からは、鼻血がピューっという勢いで吹き出し後ろへ吹っ飛び、


倒れた女の子の顔は鼻を中心に拳型の痣ができて大変なことになっていた。


「人の愛車に勝手に触れやがって、ただじゃおかないからな?」



……そこ!?




すでに大変なことになっている女の子に向けて、まだただじゃおかないと言う駒井。



駒井は、自分がゴミ認定したものに対しては容赦ないのだ。


「……っ‼︎………っ〜…〜…」


鼻の骨は確実に折れただろう、真っ赤になっていて、赤黒い鼻血が、女の子の太ももを真っ赤に染めるくらい、止まることなく、ぼたぼたと垂れ流されている。


女の子は、そんな痛々しい鼻を、涙をボロボロこぼしながら両手で抑えて、俯いて悶絶している。

「うぅぅ〜…………イダイぃぃぃ〜(>_<)……ギュイ!(◎_◎;)⁉︎」


目をギュッと閉じて俯きがちに悶絶する女の子の後頭部を、


駒井は容赦なく踏みつけた。


「フン……泣くくらいならもう構うな、鬱陶しい、だいたいなんなんだよお前は?」


そんな女の子を、冷たい目で見下ろしながら、グリグリ足を動かす駒井。


「……うぅ」


じっとしていてもジンジンと痛む鼻を、さらに硬い地面に打ち付けて、その上休む事なく擦りつけられるのだ。

「あぁ……あぁあ……」


どこまでも増していく痛みに襲われ続けて、開いた目と口が塞がらなくなる女の子。

涙はポロポロ、血はダラダラだ。


「ほらどうした、しっかり喋れ」


一度足を離して、女の子に喋るよう促す駒井。


「わ……わらひは……」


痛みに耐え、必死に喋ろうと口を動かす女の子。


そんな女の子の、上がり始めた頭を、


勢いをつけてもう一度踏みつける駒井。


「〜〜〜〜〜っ⁉︎⁉︎⁉︎」


女の子は、何度も硬い地面におでこを打ち付けられ、眉間からは血が出はじめた。


「聞こえない‼︎聞こえるようにはっきり喋れ‼︎」


苛立ちを抑えられず、女の子の頭をグリグリしながら、声を荒げる駒井。


「私はあなたのものです‼︎いつもあなたと一緒にいました‼︎名前はまだもらってませんが‼︎何でもしますお願いだから捨てないでください‼︎お願いします‼︎(>人<;)」


もはや絶叫するかのごとく、ありったけの力を腹に込めて叫び散らす女の子。


「うるさいわ‼︎」


理不尽に暴力を振るい続ける駒井。


ええーっ!?(・_・;!?


殴る蹴るされる間も、「私はあなたのものです‼︎」「捨てないでください‼︎」

と泣き叫ぶ女の子。


数回そのネタを繰り返した後、

とうとう飽きたのか、暴力をやめ、最初の位置に戻る駒井。


「チッ……さっきから同じことしか言ってねぇだろ‼︎俺が知りたいのはお前は何者だってことだ‼︎何の権利があって俺の愛車に触れてんだってことだ‼︎」


少しシュン……となった女の子は、少し抑え気味の声で、申し訳なさそうに、


「私はその……あなた様の言う、あなた様の愛車にございます‼︎」


「……は?」

何言ってんだこいつは、


と、眉間の血管がビキビキし出した駒井。


「あんま適当言ってるとこのまま放って帰るからな」


「そんなぁ〜……」

フラフラして、もう意識を保つだけでも必死な女の子は、しかしこのまま放っていかれるわけにはいかないようで、立ち上がろうとする。

が、


バタン、

とうとう倒れてしまう。


「おい!もう終わりか?その程度か、お前が俺に捨てられたくないっていう思いは⁉︎」

「ま……だ……」

痛みにビクンビクンしながらも、なんとか手で地面を握り、起き上がろうとする女の子。


「なら覚悟見せろや‼︎」


半ば楽しくなってきた駒井は、若干演技がかった喋り方で女の子に迫る。



「……嬉しいです」


対して余裕なんて皆無な女の子は、息絶え絶えになんとか声を出す。



「は?」


ただその発言は理解不能。


駒井も理解できずに首を傾げる。

「こんな私に構ってくれた!触れてくれた!興味を持ってくれたぁ‼︎」

やけにしか聞こえないくらい必死に叫ぶ女の子。

「馬鹿が、俺だって好きでお前みたいな汚いゴミに触ったわけじゃねーよ」


「ひょへぇえも、うぇひぃよぉ〜(*´-`)」


顔を踏みつけられ、グリグリされながらも、涙を流して喜ぶ女の子。


「キモいやつだな、それより、顔面殴られて大変なことなってるぞ?」


「ひょんあぁ〜……」



「ははは‼︎せっかく綺麗な顔が台無しだ‼︎」


自分でやっといてなんて言い草だ。駒井は、一切気にした様子なく、スラスラと喋る。


「……え?」

「……は?」


が、二人同時に今の発言のおかしなところに気がつく。


「今、綺麗な顔って言った⁉︎」


血で真っ赤になった顔をかしげて、痛みも忘れてキョトンとする女の子に、


恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして女の子に背を向ける駒井。


「思わず言っちまった」


自らの発言が信じられないのか、戸惑う駒井。

「俺は女の子には耐性がないんだ。それでまともに目を合わせただけでも照れ臭くて、思わず殴っちまうんだ」


可愛いものならなおさら、綺麗なものは汚したくなるあの原理だ。


駒井はシャイボーイだった。

今までの行為も駒井なりの照れ隠しだったのだ。



「そっか、そうだったんですね‼︎嬉しい‼︎ご主人様に褒めてもらえた‼︎♪───O(≧∇≦)O────♪」


痛みはどこへやら、体を乗り出して全身で、喜びを表現する女の子。


「うるさいな‼︎いちいち叫ぶな情緒不安定か‼︎」


と叫び散らす駒井。


情緒不安定である。


「よし‼︎いい度胸してるな女の子‼︎いいだろう連れて帰ってやる‼︎」


グッドと親指を立てる駒井。


「やったー‼︎嬉しい‼︎嬉しい‼︎」


バンザイする女の子。


「だからうるさい‼︎ほら立て‼︎帰るぞ‼︎」


そう言って歩き出す駒井


「……それが」


座ったままの女の子は、申しわけなさそうにシュンとする。


「なんだ?」


「立てないんです。下半身が動かない」

「お前どーやってここまできたん?」


開いた口が塞がらない駒井。




「ご主人様を乗せて走ってきました。」


言いにくそうにボソボソ喋る女の子。


「そうか、アマンダが真っ二つにしちまったもんな」


どこか遠いめをして語る駒井。


「下半身をくっつければ歩けると思うのですが……」


足をさすってしょげる女の子。


このまま置いて帰られると思っているのだろう。


「全く、世話の焼けるやつだ。今この場で修理は無理だから、ウチまで担いでやる」


そう言って女の子を担ぎ上げてウチへ帰る駒井。


仮にも半生を共にしている愛車だ。今更両断くらいで捨てるなんて出来ない。


「ふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎いつもなら私が乗せて走るのに‼︎今は私の方がご主人様に乗ってるゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‼︎」




「妙にテンション高いな、そんなに喜んでもらえたら俺もうれしーぞ‼︎」


テンション上がって走り出す駒井。


「あははははは‼︎楽しい‼︎嬉しい‼︎最高ォォォォォォォォォォォ‼︎」


女の子ももう正気ではなくなっている様子。


「そんな喜ばれると俺もなんだか気分が良くなってきたァ‼︎」


キラキラした雰囲気の中、スキップして帰る二人。



……ちなみに、



アマンダはピクリとも動かないまま、地面にピッタンコ放置である。

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