第12話 雷と噂のあの人・・・

あれから三週間。


その間にも、被害は拡大していてもうパニック寸前の状況に陥っている。


集団失踪時程ではないが、細い雷が一週間おきに生徒たちに直撃した。一時に消える人数は少なかったが、回数が重なると被害者数はあっという間に30人を越えた。全ての被害者はこの高校の生徒ということから、登校生はみんな怯えている。


度重なる落雷後にはきれいに人が消えているため、科学者により爆薬犯の線は消えた。しかし、雷にうたれても、普通人は消滅したりなんかしない。未解決のまま時が過ぎていくだけだった。 




もう呪いなんじゃないかと考えるのは、納得できる話だと思う。ちなみに現在、巷ではこの学校は呪われていると、噂になっている。あまりの怖さに学校を休んでいる子もいるようだし。来年に入学してくる子供が激減しそうな勢いで、成学高等学校の人気が急降下しているのだそう。


まぁ、そんな事はどうでもいいとして。


日に日に殺伐としていく校内では、口を開く生徒も少なくなって、生徒会の対策も功を成す事は無くなっていった。しかも、生徒会長の不在はかなりショックが大きいみたいだ。


「・・・もう雰囲気がやばいですね〜。幽霊館って言われてもしっくりきますね〜」


「お前のその能天気さはどこから来るんだ・・・」


下校は警備員が取り締まる道のみの使用となっている現在。仏頂面のおっさん達に見送られるのも落ち着かないけど。成学高等学校の生徒は外出も控えるように指示され、自由も限られる。次は自分の番じゃないかと、みんな疑心暗記に陥っているから、明るいうちに下校も許されている異常な事態だ。


かなり滅入ってくるな・・・これ。


実際、春瀬も口調は元気だが、蓮たちを心配しすぎてげっそりしている。かくいう俺もあいつらの、あの笑顔が忘れられず眠りも浅くなっていた。


「あのさ、天野っちって、ドッペルゲンガーって信じます?」


「は?」


下校途中の電車内。春瀬が降りる駅の一個前。今までだんまりだった春瀬が唐突に尋ねてきた。


「目の前に自分自身の姿を見る『自己像幻視』、幻影だとも言われるそれは本人にしか見えなくて、それを見た人は必ず死ぬ。周りの人も見えるケースがあるが、声をかけても反応することはなく・・・」


「いや、意味は知ってるって。なんで急に?」


いきなり抑揚のない語りに入ったのを怪訝に思ってみると、ケータイで説明文を読んでいるだけだった。なんか、脱力してしまうがその変わらなさに安堵も覚える。


「それを見たっていう生徒がいるんですよ〜。」


「誰を?」


「会長を」


「・・・」


どうしよう。どう反応していいのかさっぱりわからん。


電車に揺られたまま突っ立っていた。


「ふっふ〜。驚きました?ビビりましたよね?」


ニタニタ笑ってこっちを見てくる。


うん。むかつく。


「ふん!」


「いたっ!何するんですか〜。見た生徒、結構いるのに」


デコピンを食らってのけぞる春瀬は、額を押さえて口をとんがらせる。揺れてんのに、バランス力いいな。


「茶化すなよ。それに、それってドッペルゲンガーって言うのか?ただの会長似の人か、会長本人かもしれないだろ」


むすっとして半目で睨んでいた春瀬だが、次の瞬間にはけろっとしていた。相変わらず図太い。


「でも、それが本当だったら、クーちゃん達のそれも存在するかもしれませんよ〜」


「居たって、本人じゃないから意味ないだろ」


「でも、手掛かりにはなりますよね〜」


「手掛かりって、どういう・・・」


揺れが止まった。駅に着いたらしい。空気の圧縮音とともに扉が開くと、春瀬はひらりと降りたつ。すると、ふと振り返ってこっちを指差した。その口元には、意味深な笑みが浮かんでいる。なーんか嫌な予感が。


「明日、それを捜索、追跡します!」


口から出たのはトンチンカンな発想だった。突っ込もうとしたが、扉が閉まる音で遮られてしまう。隊長命令ですから拒否権はないですよ〜、とにやけた顔でぬかす春瀬にイラっとしたが、反応を聞くまでもなく階段を駆け下りていった。


「あんなのが隊長とか、部下がかわいそうだな」


・・・って部下は俺か!


ため息が自然と出てくる。が、口端がつり上がっているのを自覚する。


あれから何の痕跡もなくて悠真たちの捜索もできなくなっていた。我ながら情けないが、言い訳はしない。それでももう、失くすのは嫌だし。隊長に付き合ってあげようかね。





翌日。

重苦しい雰囲気のホームルーム後、教室を抜け出して屋上へ直行する。太陽が雲から顔を出していた。なんか、蓮がいないと静かすぎて不安になるな。悠真も、どこにいるんだか。


そんなことを柄にもなく考える自分に苦笑いが浮かぶ。あー、やめだやめだ。ジメジメ考えるとかいつから俺は真面目ちゃんになったんだ!


いつもみたいに目を閉じると、呼吸が深くなっていくのがわかった。


「んー。やっぱ、天気がいいと気持ちいいぜ!」


扉が盛大に音を立てて開かれる。向かってくる足音に意識が浮上してくる。


「お、やっぱここにいたか!問題児!」


「ふぐっ!」


腹にチョップを食らってくの字に体が曲がる。底から声が漏れた。仕掛けたやつを睨むと、そこには口を開けて笑っている朝木が目に入った。


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雷の使い方、間違っていると思います! 焼き魚〜塩効いてます〜 @yaki-zakana

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