第11話 雷は笑いに変わる

「ッチ。あの会計、余計なことを言いやがってぇ!」


「信仰心も行きすぎたらうざいですね~」


「お前ら、遠慮という言葉を知らんのか」


「あ?なにそれ、旨ぇのか?」


「じゃあ、言い換えます。会計さんのお・か・げ・で、皆さん静かになりましたね。いや~、さすが成績優秀な方は発言力があります。何もかも会長を慕したう心、感服しましたよ~。これならば、後の題も恙無つつがなく執り行われるでしょうね~」


余計に酷くなった!!


要約するとですね。


自分の立場も、自分に発言力があるのも忘れて脅しまくったから、委員長たちがビビって事実を一部ねじ曲げたじゃねぇか。後の題も、ビビった委員長たちは会計に促されるまま、どんな発案にも口をつぐんで会計に賛同するだろうな。もう、不安しかねぇよ!


こんなとこじゃないでしょうか。副会長たちの信頼は薄い模様。


立て板に水とは、まさにこの事だな。この場合は、水は水でも毒入りの濁った水だけど。小さく拍手をして満面の笑みの割には、口から出てくる言葉がえげつない。毒しか出てないから。


朝木は春瀬の言葉に嫌みが混ざっているのは解ったようだが、裏の言葉を掴みかねているようで、頭を捻ひねっている。


わからなくていいと思うぞ?


2-4と書かれたプレートが設置されている教室の扉を少しひいて、中を覗く。廊下では、他の教室から興奮した騒ぎが漏れていたが、ここは沈痛な静けさに包まれている。たぶん、1-4も3-1も、同じような雰囲気になっていると思う。


半数が空席という、異様な光景。皆黙っているし、お通夜みたいだ。それはそうか。頼りになる委員長も、友達も一気に居なくなったんだし。


先生も、どう声をかければいいのか迷っているようだ。そんな中普通に帰るのもなんだか違う気がして、俺は思い切って勢いよく扉を開いた。


「たっだいま帰りましたー!」


バーンッ!という突撃に、不意打ちを喰らったかのような驚いた皆の顔が上がり、一斉に視線を向けられる。なんか、前にもこんなことがあったような・・・。


後ろから、戸惑った朝木の声と、バカにした春瀬の笑い声が聞こえるが、まるっと無視だ!


教卓の前に座っている先生の方へと向き、ピシィッと敬礼する。


「教官、屋上や廊下に異常は見られませんでした!」


「誰が教官だ!お前、またサボりに屋上へ行ってただけだろうが!」


「失礼な!巡回ですよ、巡回。春瀬と朝木も居たんだから、そんなことできるわけないでしょう?...昼寝したかったけど」


「最後、不満げにボソッと呟くな!」


先生が確認するように、春瀬たちを見やる。いつの間にかちゃっかり席についてるし、あいつら!


「えぇー。高ちゃん俺らを疑ってんのかよ。俺と鳴海なるみちゃんはずーっと教室にいたぜ?なぁ?」


「そうですよ~。天野くん、怒られたくないからって、私たちを巻き込まないでくださいよ~」


こいつら!芝居がかった仕草までしやがって、ニヤニヤするな!


「らしいぞ?天野」


笑みをうかべる先生。でも、口の端がピクピクしてるし、デコに青筋浮かんでますよ?表情筋鍛えた方がいいと思います、教官。


「あははー。さぁて、もう一回、巡回でもしてきますかねっ」


わざとらしく腕を伸ばす。下ろした瞬間、扉めがけてダッシュ。逃げるが勝ちである、が。


「ぐぇっ」


元剣道部エースの先生から逃げおおせられるわけもなく。


襟首を捕まれ、喉がつまった。カエルの鳴き声のようなうめきがもれる。おっ、カエルが捕まりましたね~、などとほざいているやつがいた。春瀬か!こんな失礼なやつはアイツしかいない。


「教師の前で堂々とサボろうとするな!」


「でっ!!」


脳天に鉄拳が降り下ろされた。結構痛いんだよな。そのままいつもの流れで、生活指導室へとずるずる引きずられて、連行される。


教室から春瀬と朝木の笑い声が聞こえる。


「皆さんも、私たちが問題児と一緒にサボっていたことは、内緒にしてくださいね~。」


おいおい、聞こえてんぞ、コノヤロウ。


さっきまで呆然とした表情で俺たちの芝居を見ていたクラスメイトたちは、今となっては春瀬につられて笑っている。なんか、カエルが帰った~とかいう台詞に、バカにされている気がするが。まぁ、いいか。


「引きずられて笑うやつがあるか。...ま、ありがとうな」


おっと、口許くちもとが弛ゆるんでいたようだ。


・・・そんなことより。先生の背中を見つめる。照れ臭いのか、こちらを振り返ろうとはしない。


「先生・・・おっさんのツンデレは受容ないですよ?」


言った瞬間先生が振り返ったが、その表情は照れなんてものは微塵もなく、ただ真顔だった。俺の襟をつかんでいない空いている手で、またも脳天を貫かれる。


「ったぁぁあ!」


手刀が拳骨よりも痛いって、どういうことだ!先程の鈍い痛みより、今の鋭い痛みの方が断然耐え難かった。痛みに暴れる俺を力ずくで引きずって行った。俺の喚きに教室から顔を出した生徒たちが、ああ、またか、という呆れ顔で戻っていく。


え、俺の問題児扱いって、他クラスにも認定されてるんだ。


ドナドナされた後、手刀を喰らいながらの説教が待っていた。

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