第10話 雷の余韻
「会長のせいだと言うの!?」
悲鳴にも近い甲高い怒声が、俺のうつらうつらした脳に響く。おお、キーンってなるからやめてくれ。
閉じていた目を開くと、高嶺先輩が椅子から立ち上がる音が聞こえた。怒り心頭の彼女に、目を合わせるものは誰もいないだろう。てか、ちょっと口調が女になってますよ、会計さん。インテリキャラは何処へいった。
教師は教員会議で欠席中。ここにいるのは、各クラス委員長、生徒会メンバーだ。と言っても、幾つか空席があるはずだ。
え、何で俺がその中にいるかって?
いやいや、中・に・はいないよ。入れないし。だから、外にいる。聞き耳たてて。つまり、盗み聞きである!
しゃがんだ俺の上には朝木が、さらにその上には春瀬が寄っ掛かっている。重たいんですけど、君たち。二人の顔は、思ったよりも真剣で、会議の会話を一言も聞き漏らすまいと耳を寄せていた。まあ、気持ちは解る。あいつらがどうなったのか、いや、何処へ行ったのか、気にせずにはいられなかったから。
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電車内で、俺はひたすら悠真たちに電話をかけていた。少しして事情を春瀬と朝木にも説明すると、二人も協力してくれたのはありがたい。だが、みんな圏外か電源を切っているらしく、誰もでない。折り返しもない。クラス半分と言っても、20人弱の全員が携帯の電源切ってるなんて、ありえなかった。
生徒が次々に降りていき、電車内も閑散とし始めたところで、未だに残っている高嶺先輩に相談した。
「あらかた、先程の落雷で電波がおかしくなっているのでしょう。そのうち直ると思いますから」
会長がいるから大丈夫。
そう言って取り合ってもらえなかった。引き返そうにも、暴風のせいで反対車線の電車は運行停止になっている。
結局、何も成す術すべ無く帰宅した。悠真の両親は近所にいて、昔からの知り合いだったため、家に帰るとすぐに電話で伝えた。それから何時間経っても、悠真は帰らなかったらしい。しかも、帰宅完了の連絡が会長のグループだけ回ってこなかったことが、奥様方の連絡網で判明した。
落雷したのが、悠真たちがいた駅のホームに停まっていた電車だったことも。ホーム内は、炭をぶちまけたような有り様だったことも。すべてが事後に判明したことだ。もう遅いと解っていても、あのとき、無理にでも電車から降りていたら何かが変わっていたかもという、『もし』を考え後悔する。
警報が解除された翌日から。
学校への苦情、警察の事情聴取、現場の差し押さえ、記事の取材、世間からの批判、テレビニュースの撮影などなど。騒がしいなんてもんじゃない程の荒れっぷりだ。現在進行形で。
実際に、校舎の窓からは、門前に殺到しているテレビや記者たちがアリンコのようにらうじゃうじゃと群がっているのが見える。
『学校側はどういった責任をとるつもりですか!』
『失踪した生徒たちについて聞かせてください!』
『雷が落ちた場所に彼らを放置したと言うのは事実ですか!』
『ねえ、友達がいなくなったとき、君たちは責任を感じなかったのかい?』
『今のお気持ちは?』
そんなくだらないことばかり。口を開けば、責任、責任、責任。根拠のない作り話を、嬉々として取り上げる。警察も警察で、同じ質問を繰り返してくる。まるで、俺たちが嘘を述べているというかのように。
教師は、生徒たちをなだめているが、俺にとってはご機嫌とりにしか見えなかった。俺たちのクラス担任は例外だが・・・。
そういうわけで、役員による会議が緊急に開かれた。
取り仕切るのは、欠席している会長の代わりに副会長が行っている。題は、事件の詳細確認、臨時の役員補充、校内の鎮静化対策、である。失踪については、俺たちが知っている以上の情報は挙がらなかった。だが。
「会長が何故かグループを二手に分けていた」
という、一人の発言に高嶺先輩が突っかかった。
それが、冒頭で高嶺先輩が叫んでいた理由。思ったことを言っただけだっんだろうが、可哀想に。高嶺先輩を敵にまわしてしまったな。君も晴れて、「背信者」の仲間入りだな。俺もそこに入ってるんだけど。
警察は依然として、爆薬を使った通り魔が犯人だと断定しているようで、不審者を見なかったかやたらと聞いてくる。だが、遺体も肉片も見つかっていないから、行方不明扱いとなっている。
神隠しだ、とまた変な噂が流れているが、こんな派手な神隠しがあってたまるか!どんだけ目立ちたいんだ、その神様。
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「華、落ち着いて」
「っ。すみません、感情的になりすぎました。ただ、会長に責任を押し付ける発言は、以後慎むように」
副会長の穏やかな口調に冷静になった高嶺先輩は、それでも会長を少しでも批難する輩やからに牽制をかける。さすが、会長の信者。だから、会長に文句を言うものは、ことごとく「背信者」認定となる。盲目的なほど、崇拝してる。ちょっと怖いが大丈夫?洗脳されてない?
生徒会メンバーは苦笑するだけで済んだが、委員長たちは高嶺先輩に恐れて、口を開けなくなっていた。これじゃあ、事実確認すらできない。無駄足になったな。後の二つの題は俺たちにとってはどうでもよかった。
忍び足でそこを去る。
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