ショートストーリー
板茂 立伸
「美人とおじさんマラソン」
今日はお正月だ。お正月と言えばテレビでお笑い番組や箱根マラソンなんかを見るのが定番だが、正直僕はつまらなく感じていた。
そんな事を思いながらスマホで番組欄を眺めていると、ある文字に目を引いた。
「美人マラソン」
たったこの6文字がとても魅力的に感じたのだ。ああ、僕はなんてイヤらしい奴なんだろう、こんな安直な文字に惹かれるなんて……
そんな事を思いつつチャンネルを切り替えて番組を見ることにした。
とても綺麗な女性たちが並んでいた。並んではいたのだか、その間には普通とも言い難いような容姿のおじさんたちが女性と手を繋いるではないか。どうやら3組のペアが並んでいるようだ。
僕はそんな光景に唖然としていると、司会者が現れてルール説明が始まる。
「全国50億人の視聴者の皆さん、明けましておめでとう!」
「さあ新年1発目の企画は美人×おじさんマラソンだー!」
これではまるでタイトル詐欺ではないか。
「ルールは簡単、女性とおじさん1人ずつのペアで、500メートル先のゴールを目指すのさ。簡単だろ?そこの君?」
何故か僕に向かって話しかけているような感覚だった。
「だがしかし、この500メートルの間には様々な障害物が並んでいる」
「果たして1番にゴールするペアは一体誰なんだ!」
呆気とられている内にペアの紹介が始まった。美女とおじさんが並んで紹介されているが、正直ミスマッチもいいところである。
「景品はこの麦お粥、誰がこの景品を獲得できるのか楽しみだな!」
「さあ間もなくレースは開始だ!チャンネルはそのままだぞ」
お粥……………一体どこが豪華な景品なんだろうと考える暇も与えないままカウントダウンが始まった。
3,2,1…………スタート!!
各ペアが走りだした。ペアたちの先にはお椀が並んでいる。
「さあ第一障害物は、二人羽織によるお粥のお食事だー!」
「この障害物では女性が上、おじさんが下になってお粥を完食する競技だ」
早速二人羽織になっておじさんがスプーンを動かし、女性がそれを食べている。
「熱い!そっちじゃない!左だよ左!」
スプーンと女性の口が合わず、熱々のお粥がほっぺに当たっている。
各ペアは汗をかいて地面が水浸しになるほどの暑さ、よれよれの姿になっていた。
「おっとこちらのペアは長い箸を使った二人羽織だ!完食は難航しているー!」
人の腕よりも長い箸を使ってお粥を食べている光景はとてもシュールだ。
さらに長い箸の影響でお粥が首に当たり、女性が苦しそうにしている。
先に抜けたペアが次の障害物に当たっていた。
「さあ最後の障害物は乗り物競争、くじを引いて指定された乗り物に乗ってゴールに突入だ!」
くじを引いたペアが出した乗り物は『大昔の自転車』と書いてある。
あの前輪がとても大きいような自転車の事だ。
係員が大きい自転車と梯子を用意し、ペアを自転車に乗せている。
次にやって来たペアが引いたくじには『5人乗り自転車』と書いてある。
5人乗りの自転車を2人で乗るようだ。
前の2組が特殊な自転車で悪戦苦闘していると、一番遅れて来たペアが出した乗り物が『原動機付自転車』だった。最後のペアは爽快な顔をしながら前2組を追い抜き、ゴールに突入した。
「おめでとうございます!優勝は美人とおじさんペアです!」
いや、全員同じようなペアではないのか……と心で突っ込んだ。
「景品の麦お粥をどうぞ」
司会者が熱々の麦お粥を女性に渡すと、女性はそれを食べて熱そうな顔をしながら
「最高です!」
と叫び、とても嬉しそうな表情で〆た。
「それではマラソンはここでお終い。また会う日までさようなら!」
後ろでは未だに自転車を漕いでいる2組が映っている。
その直後、画面は砂嵐となり何も映らなくなった。
僕はそれをずっと見つめていると目の前が歪んできて、真っ暗になった。
2時間後、母が気絶している僕を発見し病院に運ばれたが、検査では異常なしと診断された。
病院から帰宅した後、番組欄をひたすら探してあの「美人マラソン」を見つけようとしたが、どこにも書かれていない。
僕は一体何を見ていたのだろうか……
ショートストーリー 板茂 立伸 @mtno
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ショートストーリーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます