私たちテキストガールズ!

弐護山 ゐち期

テキストガールズのミーティング

「前回よりも英語と古典分野の得点が減少しています。また、数学も他と比べると多少は出来ていますがやはり得点率は低下していますね。暗記が主体である地理、世界史Bは選択問題ではない文章で説明するといった知識と思考力が問われる問題が取れていません。現代文Bにおいては評論文はさっぱりなのに対し、小説は九割以上の得点率です。偏りが大きすぎますね。最後に化学・物理についてです。物理は一年時の公式を使いこなせていないのと最近の学習内容をしっかりと理解していない傾向にあります。化学においても最近の範囲を理解できていないようですね。以上、今回の模試結果を踏まえてミーティングをしていきます」


 通知表が擬人化した『ポート』がミーティングを進める。彼女は僕の成績関係の情報を司り教科書彼女たちの統率や、各分野の分析を行っている。僕にとっては秘書のような存在だ。現在、ポートの周りには教科書たちが集まりミーティングを始めようとしていた。


 ある日、学校から帰ると机の上に魔法少女のステッキが置いてあった。ステッキとは言っても妹のおもちゃなのだが。妹は日曜日の朝に放送している某魔法少女アニメが大好きなのだ。妹に返すべくステッキを手にした僕は恥ずかしながら魔法少女の真似をしてしまった。

「マジック、ミラクル、デラックス、ラブリー、ローリングシュート!」

 そして次の瞬間、ステッキが光りだし爆発音と共に部屋は煙で包まれた。しばらくして煙が晴れるとそこには彼女たちがいた。彼女たちが言うにはステッキのせいで擬人化してしまったらしい。元の姿に戻るには僕が彼女たちの教科すべてで十割を取らなければいけないらしいのだが、僕は根本的に勉強ができないのである。そんな僕が十割を取ることなんて到底無理なのだ。しかし、彼女たちは僕に十割を取らせるべく全面的に勉強のサポートを開始した。こうしてテキスト娘たちとの生活が始まったのである。

 現在、彼女たちは僕のテスト結果を受けて次の対策を話し合っているところだ。



「ミーティングを始める前にこのグラフを見てください。マスターの試験ごとの偏差値の推移を表したグラフです。見て頂いても分かるように高校入学時を境目に低下の一途をたどっています。この右下がりのグラフを右上がりにできるよう有意義な話し合いにしていきましょうね。では、英語科の『リッシュ』よろしく」

「オーケー! ワタシが分析したところ、原因は単語にあるデスヨ。文法は分かっていても動詞、副詞、形容詞の判別やスペルが曖昧で間違えているデス。長文読解もポイントは抑えているデスが単語のせいで何が書いてあるのかが読み取れていないデスね。あと、リスニングもまだまだデス。以上から、単語とリスニングを強化していきたいデス!」


 金髪ヘアのリッシュが報告を終える。彼女は英語のワークと英語の教科書が擬人化したもので文法、並び替え、長文読解はもちろん発音もネイティブそのものである。金髪お姉さん、最高だぜ!


「分かりました。では、就寝前の単語暗記と登校時のリスニングの時間を増やす方向でいきましょう。あと、音読の量も増やすべきですね。次に国語科古典分野の『典子てんこ』よろしく」

此度こたびの試験で古文においては助動詞の活用・判別がしっかりと理解できておらぬことが分かった。漢文では再読文字を覚えきれておらぬ。わらわがあれほど教えたのに……無念じゃ。我が主は話を把握することはできるが細かいことができておらんのじゃ。それ故、分かるのに解けないのじゃな」


 この麻呂みたいな口調の彼女は典子。古文B、漢文Bの教科書が擬人化したものだ。助動詞うんぬんと言っているがこれでも九歳らしい。


「了解しました。総合的に分析した結果、量が足りませんね。読んだ文章の数が。それが原因だと考えられます。古文、漢文、両方とも文章を多く読むことで文法、構文、活用などを流れで覚えられます。そうすることで得点率が上がると思いますよ」


 ポートがまとめる。さすが全教科書をまとめているだけあって知識の幅が広い。


「では、次に国語科現代文分野の『ノベ』よろしく」

「承知した。今回のテスト、マスターはよくやったと思う。私が教えた小説で九割をとるなんて凄いではないか。この調子でやっていきたいと思う。以上」


 現代文Bの教科書が擬人化したノベは素早く報告を終えた。勢いと気迫で報告を終えたが最も報告するべき評論文の報告をしていない。


「あの、ノベ? 評論文の報告は?」


 ポートが不思議そうに言う。ノベはポートに問われ冷や汗をかいて固まってしまった。ノベの妹分である典子も不安そうに見つめている。


「あの……その、何というか……」


 ノベは現代文の教科書だ。しかし、弱点がある。評論文が苦手なのだ。ノベ曰く評論文は読み始めただけで思考が停止する上、何を言いたいのかが分からない。多分、僕たち二人は単純に興味がないのだ。


「評論文は分からないのだ。しっかりと読んでいるはずなのに理解できない……そう、つまらないのだ。評論文が小説のように面白ければ良いのだが。ライトノベルが好きなマスターはなおさら思っているだろう。であるからマスターと二人で良い方法を模索していこうと思う」


 何とかノベの報告が終了した。次は数学の『スウ』の報告らしい。


「今回の数学はイケると思ったのにな~。えっとね、マスターは基本はイケるの。でも応用が全然ダメね。小テストレベルはイケるけど模試レベルは早いかも。う~ん、やっぱ量っしょ。解いて、解いて、解きまくる! それしかないね。報告は以上!」


 スウは数学Ⅰ、A、Ⅱ、B、Ⅲの教科書が擬人化したものだ。スウは基本的にノリが軽い。友達のような……そう、幼馴染のような存在だ。


「スウ、もっと具体的に。どのレベルの問題をどれくらいやるのか。それによって時間配分が変わってくるでしょ。明日までに考えておいてね」

「は~い!」


 ポートがスウの報告を手際よくまとめ、ミーティングを進める。次は社会科目だ。


「じゃあ次は地理Bの『ジオ』と世界史Aの『歴子れきこ』よろしく」

「それでは地理Bの私から。マスターの弱点は暗記ができでいない点。仮にできていたとしても図で出題されると解けない。また、文章説明問題も皆無。独自の分析より図で覚えることが有効的であると言える。ゆえにこれからは暗記ではなく図を使用し視覚的にも覚えさせる」

「了解です。この調子でお願いね」


 ジオは淡々と報告を終わらせた。ジオはあまり感情を表に出さない上に前髪で顔が隠れていて表情もあまり分からない。僕はいつかジオの笑顔が見たいと思っている。次は世界史Aの歴子だ。彼女は世界史Aの教科書なのだが日本史が大好きらしい。


「今回の敗因は単語を時代ごとに覚えなかったことにあるぜよ。世界史AはBと比べて格段に進みが早い上、飛ばされるところも多く混乱するのはしょうがないでござるが……。また、単語を言葉で覚えてしまっている為かその単語が生まれた時代背景を問われた時に答えることができていないぜよ。だからこれからは年号表の導入をし、単語と時代を共に覚えさせていくぜよ」


 歴子は日本史オタクだ。いわゆる歴史女子というやつ。僕は世界史を選択している為、日本史は分からない。でも歴子の影響で最近興味がでてきた。


「分かりました。それではミーティング終了後、年号表の製作をしてください。できるだけ早く導入できるようにしてくださいね」

「承知したぜよ」


 最後は『リッカ博士』だ。博士は化学・物理の教科書が擬人化したものだ。彼女はいつも白衣を着ている。でもサイズが大きすぎて袖から手が出ていない。見た目は典子のような子供だが違うらしい。本当の年齢は謎だ。


「コホン。これから報告をはじめるヨ。まず初めに化学からだヨ。化学用語は覚えられてるけど、モル計算や質量パーセント濃度などの知識ではない実践的な分野が取れていないヨ。応用問題なんて言うまでもないヨ。物理は一年時から現在までということで範囲が広い。だから公式がごちゃごちゃして結局は解けていないヨ。以上の分析から化学は計算問題を主体的に、物理は一年時の復習をかねて公式の整理を行っていこうと思うヨ」

「そうですね。良いと思います。どちらも公式を扱うので混ざらないように注意してください」


 全員の報告が終了した。最後にポートが締めくくる。


「皆さん、お疲れ様でした。今日のミーティングは前回よりも有意義なものになったと思います。今回の報告を受け、よりよい学習計画を立てていきますね。今回の報告以外で気がついたことなどがあれば随時、私に言ってください。それでは一日でも早く元の姿に戻れるよう明日から頑張りましょう!」


 ポートは僕のほうを向き、話を続けた。


「私たちが元に戻れるかどうかはマスターにかかっています。これからも私たちは全力でサポートしますのでマスターも一緒に頑張っていきましょう。マスターなら絶対できますよ。これにてミーティングを終了します。以上、解散。ありがとうございました」


 これは勉強ができない高校生の僕とテキスト娘たちの長いようで短い物語。これからも僕とテキスト娘たちの勉強生活は続いてゆく。

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