三十分で書いた異世界救済もの
蒼凍 柊一
作成時間 19:07~19:35
『天空に居られます光の神エルミレン様、私に力を授けてください。彼の凶悪な魔王に打ち勝つ力を!』
瞬間、呪文を詠唱した術者――女の子だ――の足元から、金色の光が粉のように吹き上がる。
それは術者の周りを踊るように舞い、凄まじい輝きを放ちながら地下迷宮の最奥、魔王の部屋を隅々まで照らした。
「ふはははは! 愚かな人間め! この我に勝てると思うたのか! 地上の王族が護衛もつれずに何をしに来るかと思えば……ただ無数の光を召喚しただけとはな! フハハハハハハハハ!! 笑わせてくれる! 笑いすぎて腹が痛いわ!!」
「くっ……どうして!? 魔王はこの光には弱いと聞いていたのに!」
彼女は魔王の言う通り、まさしく地上の王族。
地下迷宮から湧き出る魔物達が地上を侵略してきたため、光の神の恩恵を受けた彼女は護衛を連れて地下迷宮に乗り込んだのだ。
結果、千人といた一個大隊は地下迷宮百八十二層、魔王の部屋を前にして全滅。最後の一人は彼女を階下に行かせるために、魔物の餌食となってしまった。
だから、王女は考えた。
一撃必殺の魔法を出合い頭に放てば、刺し違えはするけれど魔王を倒せるはずだ。と。
だが、結果はこの通り。
彼女が光の神から教えられた一撃必殺の魔法は、魔王を光の力で焼き尽くすというものだった。
しかし現在、魔王に光は効かなかったのだ。
「光に弱かったのは三百年前の前魔王の話であろう? 今の我にはそんなもの――害ですらないわ!!」
飽いた――死ね。
魔王の静かな声が、王女の耳元に届いた瞬間、魔王は王女の眼前で禍々しい剣を振り上げていた。
ああ、終わりなのか、と王女は思う。
ここまで足掻いて、仲間を犠牲にして辿り着いておきながら、魔王に一撃も与えられずに死んでしまうのか。
悔しさと恐怖で既に王女は動けずにいた。
あとは剣に刺し貫かれるのを待つばかり。
――のはずだった。
キィン!
甲高い音ともに、眼前に何者かが現れたのを王女は感じた。
うっすら目を開けると――そこには、剣をはじかれて後ずさる魔王と、眼前で銀の剣を構え、神父のような恰好をした青年が立っていた。
「あ、あなたは!?」
「お前は何者だ――!? 我の一撃を押しのけるなどありえん!! 王族よ、お前何をしたのだ!?」
すると、神父の青年は高らかに名乗りを上げた。
「私こそ、あまねく神々より選ばれし真の神罰代行者――『白銀剣』! 此度はこの世界の神より依頼を受けたのでな……貴様を亡ぼしに来たぞ! 魔王!!」
神罰の代行者。
それは、王女からしてみれば救いの手に他ならなかった。
「神罰代行者など、我の敵ではない!」
言いながら、魔王は『白銀剣』と名乗った青年へと切りかかる。
――だが。
「ふっ、まるで手ごたえのない魔王だな!!」
軽々と魔王の剣を押し返し、白銀剣は魔王の腹に剣を突き刺すことに成功した!
「ぐああああああああああああああああああ! オノレオノレオノレぇぇい!」
「なっ!? 私の白銀剣を受けても死なないだと!?」
魔王は異形へと姿を変えていく。
そして、一瞬で白銀剣の左手を異形の触手が食いちぎる。
「ぐぅ!?」
思わず片膝をついてしまう白銀剣。
「だ、大丈夫ですか!?」
王女は必死で声を上げるが、助けに行けない。
触手が今にも王女に襲い掛からんとしているからだ。
「フハハハハハ。よもや我が本気にならねばならぬとは……死ね、人間ども!!」
「させるかぁあああああああああああ!!」
斬ッ、と王女に向かってきた触手は白銀剣によって斬り飛ばされる。
「す、すごい……」
「やるな人間……だが、貴様は既に全身を負傷しておるし、左腕もない。満身創痍といったところだろう? あきらめて、食われロ!!」
再び魔王の触手が襲い掛かる!
だが、白銀剣の目から、希望の灯火は消えることはない。
右腕での一閃にしてすべての触手を叩き落す。
「まだ左手が落ちただけだ……私はまだ生きているぞ!! ごちゃごちゃ言わねェで掛かってこいやこのタコ野郎ォオオオオオオ!!」
「ほう……ならばよい――殺ス!!」
「うォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
最後の一合で、魔王と白銀剣の姿が交差する。
そして、最後に立っていたのは――
「私の勝ちだ!! 魔王!!」
言いながら、光に呑まれて消えゆく白銀剣の方だった。
そして、魔王は消え去り、世界に平和が訪れたとさ。
おしまい。
三十分で書いた異世界救済もの 蒼凍 柊一 @Aoiumi
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