若年性子宮体がん体験記
@li006011
第1話
子宮体癌になった。2018年の3月のこと。わたしは35歳と9か月。その一か月前に結婚(入籍)をして、「子どもほしいねぇ」なんて言いながら、高齢妊娠に少しばかりおびえつつ能天気に過ごしていた頃のことだった。
最初に
この体験記は病気とともに生きる全ての仲間に捧げる。また、健康に生き、毎日を謳歌しているすべての女性にも捧げる。わたしは自分が健康だと信じて疑わなかった。そのうちに子どもを持てるものと信じて疑わなかった。近くにがんを発症した女性は何人かいたにも関わらず、まだわが身のこととして考え切れていなかった。子宮体癌の検査は女性検診の中で全員が受けるものではなく、ほとんどの病院では追加料金を自費で払わなくてはいけないオプションの検診だ(がん研究会有明病院など一部の病院を除く)。また病理検査や触診には心理的な抵抗を感じることが多い。けれども、未産婦であることや長期のエストロゲン(女性ホルモン)過剰分泌といった、いまの日本で女性が生きていればよくあることが体癌の一因になるのだとしたら、ぜひ検診を受けてほしいと思う。一つしかない自分の体、新たな命をはぐくむ可能性もあるのだから。
子宮体がんって?
子宮体癌は子宮体部に発生する婦人科の悪性腫瘍で、近年全年齢を通して罹患率が上がってきている婦人科の悪性腫瘍。2009年以降は頸癌よりも罹患者数が多い。35歳の私はいちおう若年性の子宮体癌患者に分類されているけれど、今後は検診率の向上や研究の進展により、さらに患者数が増加するだろう。ちなみに子宮体部は赤ちゃんを育てる場所です。わたしは不正出血を主訴として病院に行きました。
がんを認識するまで
煩雑で申し訳ないのですが、がんが発見されるまでのことを時系列で書きます。
2013年 : 初めての不正出血。驚いて、その頃住んでいた京都で産婦人科を受診。頸癌検診を受け「(子宮の中は)きれいなもんですよ」と言われる。エコーも問題なし。数年のちに筋腫と誤診される影もなし。その頃生理が辛くなってきていたのでピルの相談もするが、話が進まなかった。理由は覚えていない。
2014年:東京に移住。検診異常なし。
2015年:検診異常なし。不正出血を相談した気もするが、どうせよと言われた記憶がない。
2016年:検診受けず。
2017年
7月 前年度未受診だったので、職場のではなく、市の検診を受けた。通いやすいことと、住んでいる街にかかりつけ医が欲しかったため。A産婦人科では「前年度女性検診を受けていない」というと顔色を変え、とても心配して丁寧に診てくださった。頸癌検診は陰性。
10月 生理が10日間続いたので不安になり、B産婦人科に相談に行った。いくつかの病院に行って比べたかったのです。この頃、頸癌と体癌は別の検査をすると知らなかったので二度目の頸癌検査。陰性。エコーで「子宮筋腫が二つほどあるようだ」といわれる。(のちの悪性腫瘍。)
ピルの相談をするが「副作用を考慮したうえで決めてね」とのこと。血栓症は怖いし体がむくむのはいやだなと思い、踏み切れなかった。ピルを飲むとエストロゲンの分泌が抑えられるので、高エストロゲン状態を原因とする体癌には抑制力が期待できる。
2018年
2月上旬 子宮筋腫(仮)について相談するため、B産婦人科の別の医師(院長先生)に相談しに行く。別の人の意見を聞きたかった。わたしはかつて歯科で誤診をされたことがあり、それ以来、別の意見を聞くことに躊躇がない。院長先生の診断も筋腫とのこと。
「筋腫は妊娠したら大きくならないからこのままにしておくことを勧めます。次は半年後を目安にきて」と。
2月26日 生理二日目の経血量がこれまでになく多かった。記録に「塊10個。1時間以上トイレに籠る」とある。次の日も多かったのでおかしいと思い、28日に職場近くのC婦人科へ。産婦人科ではなく婦人科を選んでみた。臨場感溢るる主訴を展開したためか先生が心配してくださり、「これは……痛かったでしょう?」「いえ、全く。」 痛みはなく、出血が多いだけ。塊で出てくる理由は、血液を分解するたんぱく質の生成が経血量に追いつかないためらしい。先生は、「筋腫かなぁ……?分かりづらいんだよね。」と。
初めて子宮筋腫以外の可能性を示唆し、近隣の大学病院を紹介してくださった。3人目の先生にも筋腫と言われていたら、わたしは悪性腫瘍を疑えなかったかもしれない。
3月3日 土曜日。旦那さんと挙式する予定の神社を訪れていたのだけれど、歩くと息が上がって動悸が激しくなる。めまいもする。ついに立ち尽くしてしまった。C婦人科を受診したときは気になっていなかったが、思い返せば数日前からこの兆候があり、だんだん厳しくなっていたので、土曜夕方に受信できる新宿のレディースクリニック(婦人科)を探して受診した。先生には経血量が多かったこと、筋腫と言われてはいるが他の可能性もあるらしいこと、C婦人科からD大学病院を紹介されているが、ひとまず動悸・息切れ・めまいをどうにかしたいと話して、まず血液検査を受けた。
ヘモグロビンの値が7(女性は通常10~11だそう)で、鉄欠乏性貧血だった。妊娠の可能性を聞かれ、あると伝えると「子宮外妊娠かも」と。尿検査をするも、(残念ながら)コウノトリは来ていなかった。子宮外妊娠ではなくて良かった。子宮外妊娠は全妊娠の1%程度だそうだが、小さな可能性も疑ってくれるリスク重視の医師がわたしには合っていると感じた。今年度3回目の頸癌検査をして帰宅。
3月10日 「頸部は陰性でした。念のため子宮体部の検査もしていい?」
先生の説明で、初めて頸部と体部の違いを知り、子宮検診に体部は含まれていないことを理解した。この日は子宮内膜(体部)の細胞診と組織診をした。同日、歩いて5分の場所にあるメディカルスキャニングのクリニックでMRIも撮った。結果は約2週間後とのこと。先生に「体癌の可能性もあるよ」と言われた。クリニック帰りに書店に寄って子宮体がんの『治療ガイドライン』や『アトラス』を立ち読みした。わたしは不安なことがあれば、まず正確な情報がほしい。ガイドやアトラスは医療従事者用の本で患者向けではないが、自分の不安を和らげるためには必要だった。まだ確定診断の前だったので「がん治る奇跡」系のトンデモ本ではなく「がんとは何ぞや」系統の本を読んでいたのだが、体癌治療の根治療法は子宮・卵管・卵巣の全摘出手術であるとこれらの本には書いてある。けれど、自分が子どもを産めなくなると思いたくはない。細胞診や組織診の結果が書かれた薄紙を、わからないながらも何度も読み直してしまうのだ。
体癌の前がん病変である子宮内膜増殖症ではないか。腫瘍の筋層浸潤とまでいかないだろう。たとえ浸潤があっても温存できるのではないか。温存療法のフローチャートを眺め続けてしまう。
しかし同時にこの頃、もしもがんであった場合、どこで治療を受けるのがいいかと病院を探しはじめていた。すでにD大学病院を紹介してもらってはいるが、専門病院であれ比較した方が安心だった。がん治療で実績のある病院はいくつもあるが、とりわけ産科と密に連携が取れそうな大学病院や総合病院を調べた。もしがんでも、子供を産む可能性を消したくなかった。
部屋の棚には「妊活たまごクラブ」『安心マタニティブック』なども置いてあって、高齢出産だけど頑張るしかないかなと思っていたけれど、新たな命をはぐくむどころか自分の命を守らなくてはいけなくなってしまった。妊活本はあまりさわらなくなったが、5月20日現在、まだ捨てずに取ってある。
3月15日 C婦人科から紹介されたD大学病院の初診日。D大の若先生とはどうも、うまが合わない感じ。「なんでこんなにいくつも病院に行っているんですか?」「30代の体癌は少ないですよ。」エコーで「子宮体部の入り口に3~4㎝の塊があるのは確かですね」と言ってくださったが、体癌については否定的。確かに30代の罹患者率は患者年齢のピークである50歳代よりは低い。けれども自分が病気であるか否かはその患者自身にとっては1/2の確率ではないだろうか。説明の仕方に違和感を覚えた。D大学病院内で今後治療を受けるとしても別の医師の意見も欲しく、また二回目の診療日をできるだけ早く設定したかったこともあり、D先生以外の方に診てもらうことにした。若先生は、ご気分良くはなかっただろう。すいません。
3月23日 19日に「予定より早く結果出ましたよ!」と連絡をいただいていたので、都合がついた23日に朝からクリニックへ。このスピード感はありがたいです。細胞診CLASSⅢ・病理組織検査Grade1で、術前診断ステージⅠA期の子宮体癌(類内膜腺癌)と診断される。治療するならここが良いと思っていた、F病院をすすめてもらえたので良かった。F病院は治療症例数が全国でも多いのです。
※体癌の診断にはクラス、グレード、ステージ(病期)があり、分かりづらい。
クリニックを出て、近くの広場で予約の電話をかけた。ふと顔を上げると、十メートルほど先に、先だって卒業したばかりの教え子がいた。新宿で働いてるって言ってたものね。先輩たちにからかわれて、恥ずかしそうな、うれしそうな顔をしていた。彼の姿を目の端に映しながらしゃべった。辛いとか悲しいとか、そういう気持ではなかった。ただただ淡々と。白い敷石の円形の広場に陽が差していた。私が泣くのはもう少し先のことになる。
F病院の初診は週に1回、火曜日しか受けつけていない。直近の火曜日は予約でいっぱいだと言われたため、約2週間先の4月3日に予約した。病気のことを考えると不安ではあるが、幸いにも28日から4月1日にかけて新婚旅行を予定していた。旅はいい。思う存分遊んだ。この時見た海と空は、一生忘れられない。
若年性子宮体がん体験記 @li006011
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