第3話

「母さん…聞きたいことがあるんだけど?」


「うん…どうしたの?」


居間でいつものように 母は答えてくれる。


「母さんが昔…その…俺を置いて家出をしたときの話なんだけど…」


「誰から聞いたの…そんなこと!」


激昂する母を抑えて俺はもっとも聞きたかったことを質問する。


「一体…あの日に何があったんだ?」


自分のこの質問の仕方では母に何が?という反問がされるだろうが母はそれだけを聞いて、


「何も…何も…無かったわ」


それだけで母が何かを隠していることが長年一緒に過ごした経験でわかってしまった。


母親が息子を知っているように息子もまた母を知っているのだ。


そして…俺は核心をつく質問をつむぐ。


もし母がさきほどの質問に笑ったり、問い返してきたならばこれは聞くつもりはなかった。


だが…あの夢が…父の弔問に来る人が…そしてあのお喋りな近所のおばさんが最後にポツリと呟いた一言が俺に真実を知りたいという気持ちを後押しする。


「母さん…あの男の人をやったのは誰なんだい?」


「…誰も撃ってなんかいないわ」


やはり…そうだったのか…。


いまとなってはあのお喋りなおばさんに感謝すべきなのか余計なことを言いやがってと思うべきなのかはわからない。


『そういえば長治さんが真面目になったのもそれからだったわね』


その一言が無ければ、俺はあえて母に問いかけはしなかっただろう。


「世の中は何が幸いするかわからないわ。それに…今更考えてもしょうがないことよ」


そう言って母は例の一つだけ色の違う床板を見つめている。


俺もまた同じようにその場所を見続けていた。


父は何故真面目になったのか?


それは贖罪のためなのか?


もしそうだとしたらそれは誰に向けられた贖罪なのか?


父が死んだいまとなっては永久に知ることは出来ない。


線香の香りがフワリと辺りを包んでいた……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

撃ったのは…誰? 中田祐三 @syousetugaki123456

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ