笑わない王女の心を読んだら、なぜか僕にべた惚れしてました

 ここは拙作「笑わない王女の心を読んだら、なぜか僕にべた惚れしてました」の解説とか、裏話をぶっちゃけます。

 多分にネタバレを含みますので、本作を読み進めていらっしゃる方、もしくはこれから読もうと思っている方は後で読んだほうが楽しめるかもしれません。

 既に読み終えた方はもちろん、途中でもネタバレオッケー!という方はどうぞご覧くださいまし。





































 2021年5月現在、ライトノベルやWEB小説界隈では「ラブコメ」ブームです。2019年の頃から顕著な動きを見せていましたが、発売する作品を見てもランキングを見てもラブコメがどこかしらに入っている状況になりました。犬も歩けばラブコメに当たる。

 作者も人間ですから、当然このような状況に下心も湧きます。よーしいっちょラブコメ書いてみるか!と。

 ことの始まりはこんな単純な動機でした。

 

 ラブコメを書くにあたりその構造を考えてみたところ、“冴えない主人公がなぜか美少女に好かれたり惚れられている”が肝であると感じました。この“なぜか”が物語を書く上で重要になるだろうという直感が働きます。美少女に惚れられるだけの理由がないといかん!と作者は考えました。

 やっぱりちゃんと納得できる方がいいし、それが意外であればあるほど面白い。

 注:ラブコメ書くのにここまで真剣に捉える必要はないです。あくまで作者のこだわりです。


 しかしラブコメの面白さがこの“なぜか”にあるのなら、当然、主人公自身もなぜ?と不思議に思っていなければなりません。惚れられる理由に心当たりがあって、よーしうまくいったぞーなんて思うような奴だったら……つまらなくありません? ていうか本人の自信満々な感じが鼻につく。物語も起伏に乏しい。

 注:こう言ってはいますが、計算的にヒロインを狙って口説くラブコメもあります。あくまで作者のたわごとです。


 本人は惚れられる理由なんて見当もつかないし、無自覚。なんなら自己評価も低い。だけどそんな彼の本当の姿をヒロインだけが知っている――これがいい。こういうのが書きたいの僕は。

 というわけで「主人公の行為が惚れられるきっかけだったけど本人はまったく気づいていない」というシチュエーションを考えました。

 で、考えた結果


「未来の自分がヒロインを助けて惚れさせていた。なので過去の自分はまったく気づかない。過去に戻ったヒロインだけがその理由を知っている」


 としました。

 これなら確かに自分のおかげだし、思い当たる節がなくても説得力あるずら!


 ………。

 飛躍しすぎー!

 まぁね、この設定が出てきてしまったのは仕方のないことなのですよ。

 元々僕はSFやらオカルトやらファンタジー界隈の作品を書いてきた人間。

 特殊な設定を入れないと死んでしまう病なのです。てへぺろ。


 これは面白そうだし、あまり似た作品もないので膨らませようと思いました。

 読者さんの中には驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、つまりヒロインの「タイムリープ能力」が先に決まったのです。主人公の「テレパス能力」は後から決まりました。

 さて、ヒロインは過去に戻ってきたことになるのですが、ここでなぜ過去に戻ってきたのだろうという“なぜか?”が出現します。

 未来で主人公に助けられ惚れて付き合っているのなら幸せ絶頂なんだし、過去に戻る必要はなかったはず。

 1つ目の“なぜか”を作るために自然と2つ目の“なぜか”が生まれたことになります。

 物語を作るのってこういうことで、書きたいシーンとか設定とか関係性からどんどん膨らんでいくものなんですよね。最初はほんとなにも考えずただラブコメ的なシチュエーションと異能力を組み合わせてみただけだったんですよ。


 では、人が過去に戻るのはどんなときか。

 問い方を変えれば、過去に戻りたいと考えるのはどんなときか?

 それは後悔していることを変えたいときです。

 あのときああしていればという未練に引きずられたときです。

 究極の後悔、未練は大切な存在の消失でしょう。

 なので、タイムリープとかタイムトラベルではよく題材に上がります。

 ご多分に漏れず、本作でもそうすることにしました。でないと幸せの絶頂をやり直す理由にはなりませんから。

 

 だけど僕にはもう一つ書きたいことがありました。

 それは「最高の青春」です。

 せっかくラブコメを書くのだし、誰もが羨むほどのカップル模様にしたい。そして充実した高校生活にしたい。

 作者は割と今でも、中学とか高校生活でああしておけばなーとか、全力で取り組んでおけばなーとか、斜に構えずにちゃんと向き合っていればなーということが多々あって、思い出すとジタバタしたくなります。当時はそれが格好いいことだと思いこんでいても、結局は後悔する結果になって、ほんとタイムリープして変えたいなとため息をつきたくなります。

 ……そう、最高の青春を送るって難しんですよ。

 だいたい間違えちゃって、後で悔しくなるんです。

 だから、物語の中では最高の青春を描きたい。タイムリープでも何でも使ってそういう話を書きたいと考えました。


 ここで問題が生じます。

 タイムリープの理由が「消失の阻止」であるのと「最高の青春」の2つになっては噛み合いません。物語的にも前者のために動くヒロインに焦点を当てるべきだし、後者とするなら悲劇的な要素は控えなければいけない。トレードオフってやつです。

 だけど作者は悩みます。どちらも捨てがたい。

 そもそも「消失の阻止」も「最高の青春」もタイムリープものとしてはありふれてるっていうか先駆者がいるんだし似たりよったりになりかねません。

 そこで作者は思いつきました。

 両方やればええねん、と。


 そうして「消失の阻止」と「最高の青春」は合体して

「消失の阻止はできなかった。せめて愛する人と最高の青春を送って一緒に死のう」

というヒロインの動機へと繋がっていったのです。

 悪魔かお前は、という感じですねハハッ(ミッキーボイス

 とはいえ、それではあまりにも悲しい物語だしラブコメじゃねぇ。

 なので本作は事情を知らない主人公の視点で語ることにしました。これにより悲壮感は隠され、もう一度主人公と相思相愛になりたいヒロインとの甘い展開から始めることができます。最後に悲劇が訪れるとも知らずに。

 鬼かお前は。


 で、ここで主人公のテレパス能力もだいたい決まってきました。

 色々な理由がありますが、まず“なぜか?”に気づくためです。冒頭をご覧いただいたらわかる通り、ヒロインが自分を好きということを能力を通して気がつくわけです。そうして“なぜか?”の理由を探っていくのが第1部でした。更にタイムリープをした“なぜか?”を探っていくのが2~3部です。ヒロインは絶対に主人公に真意を語りませんから、彼自身の能力で推理していく必要があります。

 ラブコメでありながらわざと叙述ミステリっぽい作りにして、徐々に謎が明らかになるようにしていったわけですね。


 このようにしておおよそのプロットが固まりました。

 あとはちゃんとラブコメにすること、そして、ハッピーエンドで終わらすことです。たとえシリアスになってしまうとしてもラブコメとは皆が読んで面白かった楽しかったと言ってもらえる作品のことであり、物悲しさだけ残ってはそれは別ジャンルです。そもそもバッドエンドにするつもりは一ミリもない。

 なのでプロットに沿って「消失の阻止」を実現する方法を考え、伏線として盛り込みました。

 作者としては「テレパス能力」を鍵にしたかった。やっぱり主人公が自分の力を使って解決しないとね!

 あと重要な「笑わない王女」を救うのも主人公にしないといけません。

 「笑わない王女」というヒロインの要素は有名な童話から取ってきました。これはヒロインを特徴づけると共に主人公の能力を引き立たせるためでもありますが、最後の展開も実は物語をなぞっています。

 作者は、下心とか打算ではない純粋な気持ちが王女を笑わせたのだろう、と童話を読んで解釈しました。なので、本作でもそういう展開になっています。

 ここまでの流れで、本編を読んだ方々はなんとなーく察することもあるんじゃないかなと思います。


 最後にもう一つ、作者には書きたいテーマがありました。

 それは、「運命や未来なんて簡単に変えられるんじゃない?」というものです。

 物語の随所にそういう気持ちを意図したシーンや展開を書いていますが(星野のことなんかまさにですが)、なぜかというと、やっぱり自分の後悔からそう思うんですね。

 あのときああしておけばよかったという後悔や未練て、実はそのとき行動に移したり話したりしてれば何とかなったことばかりじゃないかなって思うんです。

 そんなに大層な努力じゃないし、ひとかけらの勇気で何とかなる。

 でも、そのちょっとしたことでその先のルートは変わってたんじゃないかって、今になってぼんやりと実感しています。


 もちろん、そのちょっとしたことで坂を転がり落ちるように不幸になったり、失うこともあるでしょう。作者も経験があります。

 だけどちょっとしたことでころころ変わるなら気にしたってしょうがないし、ちょっとしたことで変わるならこれから先にいいことがあるかもしれないでしょう?

 読んでもらっている方々に、そういう“何とかなるさ”みたいな、心のつかえが取れるような考え方を伝えられたらいいなと、密かに考えていました。



 本作は作者の予想外に多くの方に読んで頂き、☆もフォローも♡もたくさん頂戴してしまいました。望外の喜びです。

 改めて、ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございました!

 ではまたどこかでお会いしましょう~

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作品ごとのあとがき 伊乙志紀(いとしき) @iotu_shiki

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