終幕
終幕
終幕
朝起きて、昨日の葛藤は何だったのか、まるでそんなことなかったかのように朝を過ごし、髪の毛をいじって二つの尻尾を作ってから、目的の駅を目指してえーちゃんと共に外に出た
「じゃあ、行ってきます。そして、お邪魔しました」
えーちゃんの家をから出てそう呟く。
それは、えーちゃんの家に向けた言葉なのか。それとも、別のものに向けた言葉なのかは自分でも分からなかった。
手を繋いで道を歩く。
時間は朝には遅く昼には早く、道を通り行く人は今日の曜日にしては少なめ。
終わりに向かっているしては私たちの間に意外と言葉はなく、ただ歩いていた。
こうして手を繋いで歩いてい居るだけで色々の事が脳裏に浮かぶのだ。昨日の夜はあれほどにいろいろと頭の中に浮かんだにもかかわらず、いくらでも出て来る。溢れ出る思い出に鳴きそうになったけど、それは堪えた。こんなところでこうしている時に鳴き始めたら確実に目立っちゃうし。
えーちゃんも何かを考えているのだろうか。えーちゃんの横顔を見る。そうするとこちらに気付いたのか、微笑みかけてくれた。
その後も言葉はなく、ただ歩く。
そうして、着いてしまう。
エスカレーターはあえて使わず階段で地下に向かう。
手を繋いでいるからとかではない。最後へ向かう、終わりへ向かうたっめの幸せの余韻のような物。
それもすぐに終わり、出口を通ることはないであろうカードをかざし改札を通る。
話し声、金属音、多くの足音……その全てを合わせた騒音が響く。日光はなく、人工の光だけが辺りを照らす。
独特な、あまりよいとは言えない匂いが漂う。これを好きになることはないのだろうが、これで最後だと思うと、特別拒否するような気持ちは沸かなかった。それに、あまりよいもの過ぎても、どうかと思う。
「えーちゃん、本当にいいの?」
いつものように、隣にいる少女に尋ねてみる。十四年間、いつも最後には、こう尋ねてきた。わたしの行動の最終決定権は彼女が持つ。彼女の決定に間違いはないのだろう。人間だから、間違えることだって偶にはあるけど、少なくともわたしが決めるよりは間違いが少ないし……最終的にはいつもその行動が正しかった、とわたしは思っている。だって、どうあったって、わたしじゃあ決断することは出来ないんだから。昨日の夜のように、最後はなあなあで決まった終わりを迎えてしまうに違いない。
「うん」
隣の少女は、微笑みながら頷いた。
いつも通り、いや、いつもより優しさの籠もった笑みを見て、少し心が落ち着く。初めてのことをする時だって、嫌いなことをするときだって、その笑顔を見れば乗り越えられてきた。だから、きっと、今回も。
その微笑みは気づけば、久しぶりのような気がした。今朝見たあの微笑みとも少し違う、ここ数日見た微笑みとも違う。なんというか、前までは良く見ていた気がしたそれにどこか懐かしさを感じた。
わたし達はお互いに気持ちを確かめ合った。それが、本当に間違いではないことも、今なら心から分かる。うん、そうだ。
わたしたちは、お互いにお互いが大好きなんだ。
お互いにお互いが必要で、お互いがお互いに好きだから、こんなことまで一緒になるんだろう。そうでなければ、片方だけでここに来たはずだ。
そう、きっとそれだから、わたし達はここにいる。この終わりを選ぶことが出来た。
「えーちゃん、これでよかったのかな?」
ちょっとした迷い。でも、その迷いは本当にごくわずかな物、余りにも僅かで、どちらかというと、えーちゃんが本当にこれでいいのかを聞いているもの。わたし自体にはそれほどに迷いはない。
「うん」
隣に立つ少女のいつも通りの返答が、最後の心残りを溶かす。
「なんか、駆け落ちみたいだね」
そんな言葉が自然と出てきた。
もう終わりも終わりなのに今更何を言っているのだろうか。
こんなことを言ったわたしは、今、どんな顔をしているのだろうか? 真っ赤っか? それとも苦笑い? もしかしたら、大真面目な顔をしているかもしれない。それにしたって、おかしなことを言ったものだ。自分のことだけど、そう思った。
馬鹿げた事なのに、えーちゃんは答えを返してくれる。
「みたいなんじゃなくて、駆け落ちなんだよ、ヒナ」
決して茶化して答えた感じではなく、少し真面目さが混じり入ったい微笑みを浮かべていた。
「そっか、駆け落ちかー……ちょっとだけ大人っぽい」
「そうだね、私もそう思う」
他のみんなより、少し先に向かう感じ。本当はもっと先に向かうのだろうけど。
ちらり、時計を見る。もう少しで最終ベル、いや、最終発着音が鳴るのだろう。無駄にキンキンと鳴り響くこの金属音のような音がその予告音だ。
さよなら……心の中でそう思った。
音楽が鳴り、アナウンスがされる。
私たちは今地面を踏みだして、宙に飛び出した。
身体にかかる力の方向が変わる。いや、変わったのは体の位置を向き。
背中から下に落ちていく。
視界に入るのはえーちゃんの姿と真横から照らし出される光だけ。
そして、この世界は終わったのだ。
わたし。鈴木 陽菜の世界は、これをもってして幕を閉じた。
私の物語は一体何点だっただろう。
評論家に見せたら凄く悪く書かれるかもしれない。
でも、わたしからしたら。十分いい話だった。
そう。決して満点じゃないけど。
それでも、十分。いい話。そのはずだ。
だから、後悔はあっても。絶対に「駄目だった」とか「もっと幸せに」とかそういったことは思わない。
ただ……ただ、わたしの世界に「さよなら」……
さよなら世界と雛は鳴く 塩鮭亀肉 @SiozakeKameniku
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