第7話 終わり

「カッキーぃいいいいいいいいいいいい」


 知らせを聞いて駆けつけた「非常『ベル』」がカキの亡骸に抱きつき、大粒の涙を流しながら泣き叫んでいた……。カキの顔は安らかだった。揺り起こせば目を覚ますんじゃないか、そう思ってしまうほどに綺麗な顔つきをしていた……。

 周りにはともに戦った隊員たちがカキの亡骸を囲むように立っている……。もちろんそこにはリンとカセンの姿もあった。

 カセンは肩を上下に震わせながら、涙を流していた。声を押さえるように泣いていた……。

その姿を見たリンはカセンの肩を叩く。


「カキに言われただろ……素直に生きろと……今は素直に泣け。そして、泣き止んだら、約束を果たすんだ……。『仲間を死なせない』という約束を……」

「うっ、うっ」


 カセンはリンに何か言おうとするが、涙が邪魔して言葉にならなかった。代わりに大きく頷いた。


「うわあああああああああああああああああああああああああああん!」


 カセンは大きな声を上げて泣いた。まるで子供が泣きじゃくるように……。


「カキのあほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 相手のいない悪口は虚しさを残して、建物内を木霊した……。






――1年後――


 一人の黒髪ポニーテールに黄色の髪飾りをした少女がカキの後釜として着任した。


「本日から第4警戒区域に配属されました! 消火器の『ウカ』です! 新人ですが、エクスティンギッシャ―の誇り……、命を捨ててでも禍災から人命を守るという誇りを持って職務に励みたいと思います! 未熟者ですが、よろしくお願いします!」


 元気な挨拶が建物に響く……。

 FFEのメンバーは皆驚く。その新人の姿は一年前に死んだカキを少し幼くしたような容姿で瓜二つだったからだ。当然、ベル、リン、カセンも驚きを隠せなかった。

 カセンは聞いたことがあった。カキたちエクスティンギッシャ―……消火器は亡骸を回収され、その身体を再利用される、と。ウカはカキの身体を基にして生まれたのかもしれない、そう思った。

 もちろん、カセンは新人が気になってしょうがなかった。

 他愛もない世間話をしにウカの待機場所に暇があれば顔を出した。一年前、カキのもとに悪口を言いに行っていたことを思い出しながら……。


「カセン先輩、こんにちは!」

「ごめんね、仕事中に邪魔じゃなかった?」

「全然大丈夫ですよ。暇すぎて腕立て伏せしてるくらいですから。待機も大事な仕事とは言いますけど、つまらないですよね」


 カセンは笑ってしまった。カセンが悪口を言いに行ったとき、カキもよく腕立て伏せをしていた……。


「私ってそんなにカキって人に似てるんですか?」

「どうしてそう思うの?」

「ベル先輩も、リンさんもよく言ってるんで……」

「ええ、すごく似てるわ……生まれ変わりじゃないかって思うくらい……」

「やっぱりそうなんだ……。なんでそんなに似てるのかなあ」


 カセンはウカに聞きたいことがあった。彼女の……ウカの信念を知りたかったのだ。なぜ、そんなことを知りたいのかはカセンにも分からなかった。きっと、彼女があまりにもカキに似ていたから……だろう。


「ねえ、ウカ、あなたはもし、禍災が現れて、仲間が危機に陥ったらどうする?」

「何言ってるんですか! そんなの『死んでも守る』に決まってるじゃないですか!」


 カセンは「ふふっ」と笑ってしまう。そりゃそう答えるわよね、とカセンは思った。それが彼女たち、消火器の性格なのだから。カセンは久しぶりにちょっと意地悪をしたくなってしまった。


「私の信念はねどんなことをしてでも『仲間を死なせない』ことなの。だから、あなたが『死んでも守る』なんてことしてくれたら困るのよ。さて、どっちが正しいのかしらね」


 カセンはウカの方を見る。ウカが困った顔をするのを想像して……、しかし、ウカの表情はカセンの予想に反して、真剣だった。


「カセン先輩、何でそんなこと言うんですか? そんなの決まってるじゃないですか。『どっちも正しい』んですよ!」


 カセンは驚いてしまった。ウカがカキと全く同じことを言うから……。


「カセン先輩は絶対に『仲間を死なせない』ようにする。でも、どうしても無理な時は私が皆を『死んでも守る』、それで良いじゃないですか!」

「それじゃあ、信念を守れなかった私はどうすんのよ!?」


 カセンの口調が戻ってしまう。一年前のカキに対する口調に……。ウカはちょっと驚いたが、カセンの質問に答える。


「そうですね。その時は、私を最後の犠牲者にしてください! カセン先輩ならできますよね?」


 カセンはウカの言葉を聞いて、一筋の涙を流す……。それを見たウカが慌てる。


「カ、カセン先輩、どうしたんですか!?」

「うるさい! ウカのばーか!」

「ええ!? 急にどうしちゃったんですか、カセン先輩!」

「全く、あんたたちエクスティンギッシャ―ってのはホント、命を大事にするって概念がないのね……。決めたわ。私は絶対にあなたを死なせない。…………また来るわ」


 ウカは「私、なんか悪いことしたっけ?」というような表情で呆然とカセンを見送っていた。カセンは持ち場に帰る道中で「ちょっと子供っぽいことしちゃった。今度謝らなきゃ……」と思っていた。

 カセンはウカが自分の部隊に来たのは運命だと思った。彼女はきっと、カキの生まれ変わりだ……。カキはきっと、生まれ変わって試しているのだ、自分がカキとの約束を守れるかどうか……、とカセンはそう思い込んだ。

「カキのばーか! やってやろうじゃない。絶対に約束は守る」

 カセンはそう自分に言い聞かせた。


 彼女たち「FFE」ことFirefighting equipment(消防設備)は今日も禍災(火災)と闘う。禍災との闘いに終わりはない。これからも多くの犠牲が出るだろう。それでも彼女らはそれぞれの信念を持って闘い続ける。禍災から人命を守るために……。……仲間との約束を守るために……。

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FFE ~少女たちの信念~ 向風歩夢 @diskffn

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