第6話 特殊能力「APM」発動

 カセンはその言葉を放つカキにショウの面影を見た。今更ながらカセンは気づいた。自分が無意識にカキにショウを重ねていたことに……。本当は行かないで、と叫びたかった。だが、その言葉を胸に押し込め、答えた。


「約束する! もう誰も『仲間を死なせない』……!」


 その言葉を聞き終わるとカキは禍災の方に体を向けた。


「実働部隊第4警戒区域担当、『消火器』の『カキ』、行きます!」


 カキは宣言すると、身に付けた黄色のドーナツ型髪飾りを……特殊能力のストッパーを引き抜く……。彼女のまとめられた長い黒髪は解かれ、同時に明るい桃色に染め上げられる。眼も同様に黒色から桃色に変化する。……一度使えば死に至る特殊能力「APM」を発動した証だった。


「全隊員、全力でカキの援護に当たれ!」


 スプ「リン」クラーは自身の分身たちとカセンに命令を下す。リンの放水攻撃範囲の広さは分身を用いた数による物量作戦に裏付けられている。


「ああああああああああああああああああああああ!!」


 屋内消「火栓(カセン)」は全力でポンプを回し、ありったけの放水攻撃を両腕で繰り出す。すべては約束のためだ。


「約束する。アンタが最後の犠牲者よ。そして……絶対に無駄死にはさせない……!」


 仲間からの援護を受け、カキは禍災(火災)の炎をかきわけながら進む。常人ならば近づくことすらできない炎の中に入り、カキは禍災の火「源」を探す。


「……こんなところに壁があったんだ。これじゃ、リンさんとカセンの攻撃が効かないわけだ……」


 不思議とカキは冷静だった。この力が切れたとき、自身は死ぬというのに、随分と落ち着いていた。能力の影響なのか、死を前に達観しているのか……。


「はっ!!」


 カキは「源」を守るようにして建っていたコンクリート壁を拳で粉砕する。これでリンやカセンの攻撃が当たるようになったはずだ……。「源」がむき出しになると禍災は唸りを上げながら大きくなり、カキを襲う。落ち着いていたカキの心が大きく波打ち始める。最後の時は近い。感情が高ぶる。


「はぁああああああああ!!」


 カキは右手を禍災の源に向け、全てのエネルギーを右手に込める。ありったけのエネルギーを……最後の一滴まで右手に染み込ませる……。カキは右手に溜まりきったエネルギーを噴出させる。


「これが……私の……エクスティンギッシャ―の……『APM』、だあああああああ!!」


 カキは自身の特殊能力の名称を叫びながら、禍災に最後の攻撃を放つ!

 カキの右手から桃色の粉塵が嵐のような勢いで禍災に向かって噴射される……。命を削って生み出される激しい技は美しくすらあった……。


「これで終わりだああああああああああ!!」


 桃色の粉塵が禍災の源を包み込むように覆っていく。能力の副作用が始まったのだろうか、カキは何度も意識が途切れそうになる、が気合で持ち直し、最後まで力を出し切る……。禍災の源が粉塵で押しつぶされ、破壊される。禍災は源を失い、断末魔を叫びながら消滅していく……。カキはその様子を見届け、「終わった」と呟く。


 カキの体から、力が抜けていく……。終わったんだ、闘いも、自分の命も……、カキは薄れ行く意識の中でそんなことを思っていた。痛みは無かった。むしろ全身に伝わる脱力感が心地よくすらあった……。


(リンさん、今まで、ありがとうございました……。ベルちゃん、ごめんね、さよならも言わずに逝っちゃって……。カセン……………ばーか……素……直に……)


 ……カキの意識は途切れた…………。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る