ボクトアソボウ

安良巻祐介

木図阿曽坊

 やけに丸い大きな頭が自転車を漕いできた。

 焚き火のそばに立ち止まったそいつをよく見てみれば、ボール紙で作ったような張りぼてに下手な顔が描いてあるのを被っているのであった。

 頭の不自然な大きさにはこれで納得がいったが、その張りぼてのどこにも穴が空いておらず、これでは前が見えないのではないかということが今度は心配になりだした。

 するとそいつは張りぼて頭をぐらぐらと揺らして、大丈夫だとでも言うように頷いた。

 それから止めていた自転車のペダルを大げさな動きで踏みつけて、愉快そうにまた走り出したのだが、おやと思う間にいきなり張りぼてが燃え上がった。見当違いの方向へ進んだせいで、焚き火の弾けたのが頭に移ったらしい。

 慌てて消し止めようとしたものの、手足と頭を振り回してもがくそいつの動きに阻まれて覚束ない。

 そして救急を呼ぶ電話に手を伸ばすより早く、そいつの大きな頭はすっかり燃えつくしてしまった。

 動きを止めたそいつに駆け寄った私は、思わずわっと声を上げて仰天した。

 張りぼての下にあるはずの頭はなく、痩せた肩の真ん中に、焦げた棒切れのような突起が残っているだけだったのだ。

 そいつは焼けた頭の代わりに手をぶらぶらと振ってみせ、きいきいと弱々しく自転車を動かして、私の前から遠ざかっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ボクトアソボウ 安良巻祐介 @aramaki88

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ