第4話

心臓の鼓動が早鐘を打つように鳴り響いていた。

悪寒が全身を這い回り、冷や汗が止まらない。


今、俺は夢を見ていた。


奇妙な夢だ。とても、とても奇妙な夢だった。

夢なんて元々奇妙だとか、そんな話ではない。何かがおかしい。何かに囚われているような、そんな感覚がする。それは、今、この時もだ。


夢の中で、俺はそれが夢だと気付いた。その夢の中で見た夢は、夢から醒める夢だった。そしてその夢は…、その夢はどうやって始まった?

いや、始まりなどどうでも良いのか。だって夢は夢であって夢は夢なのだ。そう、だから。いいんだ。いいんだ、よな?いい…のか?いいのか?


俺は怖くなって走り出した。

早く。早く逃げなければ。何処へ?わからない。でも逃げなければ。何から?わからない。でも、でも逃げ、なければ。

走って、走って、走って、走って。逃げろ、逃げろ、逃げるんだ、逃げなければ。


じめっと湿った空気が纏わり付いて離れない。なにか恐ろしいものの息遣いが、俺を包み込んでいる。

周りの景色は何も目に入らない。目に入れてはいけない。視線を感じるが、決して合わせてはいけない。目を合わせてはいけない。それだけはわかる!


俺はそれから逃れられない。何処にも逃れられない。逃げられない事に俺は気が付いてしまっている!


悪夢だ。これは。


そうだ、悪夢だ。悪夢だ。夢だ。夢なんだ!

夢ならば、これが夢ならば、すぐに醒めてしまえばいい。走っても走っても逃げられないというのなら、今まで見ていたものが夢だというのなら、早く、早く、早く!この気配から!視線から!目を合わせてしまう前に!


醒めろ!醒めろ!醒めろ!醒めろ!醒めろ!醒めろ!醒めろ!醒めろ!


醒めろ!


醒めろ!


醒めろ!


醒めろ!



醒めろ!



醒めろ。



醒めろ。



醒めろ。



醒め、ろ。




おい…。



何でだ。


醒めろよ。


おい!


醒めろ!


醒めろ!


醒めろ!


醒めろ!

醒めろ!

醒めろ!

醒めろ!

醒 ろ!

醒 め ろ!

醒 め !

醒 め ろ !

醒 め ろ

醒 め



俺の願いに応えるかのように。

景色が歪んでゆく。

今まで形成されていた世界が、自分が。煙のように、液体のように。溶け合い、1つになってゆく。

覚束ない意識の中、薄れてゆく世界の中、俺は、




そこで、目が


合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そこで、目が醒めた。 @aki89

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ