猫を探して見つけたものは

「おったよ」


「こんなところに隠れてたんですのね」


 追いついてきた二人もその姿を確認する。よくよく観察してみると、石の隙間に缶を挟んで固定して、器用に爪と口を使ってプルトップ式の缶詰を開けている。


「はー、都会の猫さんは賢いんじゃねえ」


「いや、あれはちょっと賢すぎるような」


 缶を開けた茶トラはそのまま食べ始めるのかと思いきや、茂みの中から小さな猫が三匹顔を出す。


「お父さんじゃから子どもにええもん食べさせたかったんじゃね」


「そう言われると怒りにくいね」


「お庭におったらネズミさんも来んようになるし、たまには来てくれた方がええんじゃろうか?」


 カンパーニュちゃんの疑問に茶トラが答えるようににゃあ、と小さく鳴いた。報酬は鯖でいい、ということなのかもしれない。一心不乱に鯖を食べる茶トラの子どもたちを待って、空き缶を拾ってから、三人はお店に戻った。


「探していた猫は見つかったかい?」


 三人がコトブキベーカリーに戻ってくると、バゲットさんが迎えてくれる。


「待っとってくれたん?」


「久しぶりにここのパンをいただいていたよ。ブレることのない挑戦的な味だ」


 バゲットさんがどのパンを選んだのかはわからない。まだ試作中のものならばカンパーニュちゃんも食べたことのないものかもしれないくらいなのだ。


「無事に戻ってきたのなら心配ないようだね。私はお店に戻るよ。明日から忙しくなるだろうし早めに休むんだよ」


 バゲットさんは少し含みのある言葉を残してドルクへ戻っていく。


「それでは私も帰りますわ。お洗濯をしなくてはいけませんし」


「ボクも。今日は楽しかったよ。また遊ぼうね」


 それにならうようにパリジャンちゃんとクロワッサンちゃんも泥と草がついた服を気にしながら帰っていった。


「猫はどうなったんだい?」


「ネズミ捕りしてくれる、ってことで交渉したんよ。お店は安泰じゃね」


「なら、鯖缶の仕入れは増やしておかないとなぁ」


 満面の笑みを浮かべるカンパーニュちゃんを見て店長さんはそう言って笑顔を返した。


 翌日からバゲットさんの予言した通り、コトブキベーカリーは盛況を迎えていた。カンパーニュちゃんはまだおぼつかない手つきながらなんとかお客さんの相手をこなしていく。忙しい理由はお客さんと話していればすぐにわかった。


「猫のパン娘さんに会いに来たのよ。ここ、珍しいパンがたくさんあるのね」


「あの後、猫ちゃんは見つかった?」


「猫娘さん。オススメを教えてもらえる?」


「うちパン娘じゃけん猫関係ないんじゃけど……ま、ええか」


 昨日大通りを巡っていろいろな人に話しかけたことによって、街にやってきたばかりのカンパーニュちゃんもずいぶんと多くの人に知ってもらうことができた。看パン娘になるために街の人に顔と名前を覚えてもらうのは大切なこと。それを知らず知らずのうちにやっていたのだ。


「バゲットさんが街の人に聞くとええよ、って言うたんはこういうことじゃったんやねえ」


 覚えられ方は少し間違っているが、それもこうしてお店に通ってもらえれば少しずつカンパーニュちゃんもパン娘として街に溶け込んでいくだろう。小麦の香りが漂う街で一人のパン娘がまたその一部になっていく。


「うち、立派な看パン娘になるけんね!」


 小さなお店の中、いっぱいに入ったお客さんにカンパーニュちゃんは堂々と宣言する。それを聞いたお客さんたちは一様に笑っていた。

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看パン娘カンパーニュちゃん 神坂 理樹人 @rikito_kohsaka

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