アイツと俺と、間に彼女
仲咲香里
アイツと俺と、間に彼女
嫉妬した。
アイツにめちゃくちゃ嫉妬した。
いや、アイツに嫉妬するのは、よくあることなんだけど。
今日は、さすがに……っ!
俺、
歳も、地位も、経済力も、人生経験も、俺より上で、何一つ俺が敵うものなんか無いと思った。
まあ、考えようによっちゃ、俺の方が若くて、これから伸び代のある分、将来を有望視された男だとも言えるけども。
アイツに言えば、きっと鼻で笑われるに違いない。
それより何より、アイツは、俺よりも彼女の近くにいた。
アイツが彼女の側にいた年数イコール、彼女の年齢なわけで、俺が見たことのない小さな頃から、彼女の事を知っている。
それは、今更どうしようもないけれど。
俺が彼女、
今の会社に入社してすぐの新人研修で、同じ新入社員として。
完全に俺の一目惚れだった。
彼女に彼氏がいるかどうかなんて、確かめもせずに、研修最終日に、ただの勢いで告った。
「ひ、姫木さん! 付き合ってください! よろしくお願いします!」
「ごめんなさい!」
見事に振られた。
何なら少々被せ気味で、前のめりの俺に軽く引いてた気がするけど、俺は極度の緊張で、あまりよく覚えていない。
理由は、付き合ってる人がいるから、って。
彼女の、幼馴染らしい……。
名前を教えてもらった気もするが、それも覚えていない。
俺は文字通り、燃え尽きていたし……。
……だよな?
名前に『姫』が付くのも納得できる位、こんなに綺麗だもんな。
男がほっとくわけ、彼氏がいないわけ、ないよな……。
マジか。
いたんだ、彼氏……。
え、なんで?
なんでいんの?
なんで、そいつと、そんな幸せそうな顔して、今夜のデートの電話なんてしてんの?
その日、理由を知らない同期と、朝までヤケ酒を飲んで、そして、俺は吹っ切れた——。
ここは、長期戦に切り替えるべきだ。
うん、そうだ、それしかない。
そこから四年間、俺は、彼女にアプローチし続けた。
言っとくけど、別にストーカーになったわけじゃない。
親しくなる努力をしただけだ。
彼女の出席する同期の飲み会とか、会社のイベントなんかには、必ず出席したり、彼女が仕事でミスした時には、励ましてみたり。
俺の面識のない、アイツとケンカしたって言われた時には、話しを聞いたりしただけだ。
その頃には、何故か、一番仲良い同期あたりには、俺の密かな想いがバレていて、無謀だの、無理だの、身の程知らずだの、同期とは思えないご意見を、散々浴びせていただいた。
それで諦めるくらいなら、長期戦に持ち込んだりしない。
そして、一年前、ついにアイツを紹介された。
俺の彼女への想いは、五年分も溢れているんだ。
たかが五年だろ、こっちは二十八年だって、アイツは笑うかもしれないけど、でも、彼女への想いだけは、誰にも負けない自信がある。
だから、俺が着替えを終えて、期待いっぱいで彼女の部屋に入った今、なんでそこにいるんだよ!
ここのセキュリティ、どうなってんの?
いや、この場合、セキュリティは関係ないかもしれないけど……。
俺と目が合うと、丁寧に頭を下げながら、アイツが真剣な顔で言った。
「有紗のこと、よろしく頼む。雅樹」
そんな今まで見たことない顔で言われたら、こっちも改まって、挨拶するしかないっつーの。
「有紗さんは、俺が必ず幸せにします。だから、安心してください」
アイツは頭を上げると、いつもの顔に戻って言った。
「……なーんて、俺が言うと思うか! だいたい、雅樹! お前にそんな台詞、百年早いわ!」
「あー、それなら俺も、有紗はもう俺のものなんだから、潔く身を引け、の方が良かったですね」
「ちょっと、二人ともっ、今日一日くらい仲良くしてよ!」
泣きそうな顔で、困惑する有紗には悪いけど、今日は譲るわけにはいかないんだ。
一時間後には、俺より先に、彼女と腕組んで、特別な道を歩くくせに!
だから、二人で何着も試着して決めた、彼女に一番似合う、純白のドレスを身に纏った姿は、俺が一番最初に見たかったのに!
でも。
アイツが彼女と過ごした時間より、今日からは、俺と彼女の二人で紡いで行く時間の方が、きっと、長くなるはずだ——。
しょーがねーから、アイツの顔を見に、ちょいちょい有紗の実家に帰ってやるかな。
今度は、アイツが俺に嫉妬するような、土産話でもたくさん用意して。
楽しみに待ってろよ、
お
アイツと俺と、間に彼女 仲咲香里 @naka_saki
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