一部 第5話
5
今日は隔週で行われている大学の講義を受けるため、久々の大学に来ていた。
大学4年にもなれば、卒論と必修科目をとるだけになる生徒が大半なため、ほとんど大学には顔をださない。中には1、2年を怠けて3、4年も毎日講義が入っている輩もいる。
「うっす、四条。おひさ」
「うーっす。斉藤。おひさ」
こいつの名は斉藤。俺の数少ない大学の友達だ。
「お前、ホントにこの講義以外大学こねぇーのな。オレ、お前以外友達いねぇから、毎日一人さみしく講義受けることになってんだぞ?」
「いや、4年にもなって毎日フルに講義があるの、多分お前だけだぞ?」
「つれねぇーなぁ、四条。1年のときに体験ゼミ合宿で一緒の部屋になった仲じゃねーか」
「いや……まぁそんときは、確かにそうだけど……でも、もう結構経つぜ?」
「かぁー! 悲しいねぇ。月日とともに薄れていく友情。泣けてきちまうぜ」
相変わらずオーバーでわざとらしい発言をするやつだが、まぁ嫌いじゃない。実質、それ以来俺と斉藤は大学内ではともに行動していた。ともに昼をとり、ともに講義をうけ、ともにテストの対策をし合った仲だ。なんだかんだ言って、やはり大学で一人で行動するのは寂しいもので、学食で周りがサークル仲間とワイワイしているのを見ると、『俺もサークル入ってればなぁ』と虚しい気持ちになってくる。
斉藤のおかげで、楽しくキャンパスライフ送れているのは事実だった。
「なぁ、四条。お前、就職先決まったんだってな。なんで言ってくんなかったんだよ」
「え、なんで知ってんの?」
「そりゃーオレ様の情報網をたどれば一発よ。おっと情報源は聞くなよ? 例え友達の頼みでもそいつは聞けねえ相談だ」
「……お前、俺以外友達いないって言ってなかったか?」
どや顔をしながら親指を立てる斉藤に、俺は少し戸惑いをみせる。大学内の人には誰にもいってないのに、どこから漏れたのだろうか。
「バカ、友達と情報網はちげーだろ。お前がせっせと就職活動している間に、情報の網を作っていたってわけよ。へへ、来年の入試の答案用紙から去年のミスコンのスリーサイズまで、バッチリお見通しよ」
「……」
それが本当なら大学内でやばい組織を作り上げていることになるのだが。来年の入試の答案用紙なんて、生徒内で手に入るわけないし、間違いなく大学職員がその情報網のなかにいることになる。
とまぁ、これは斉藤のオーバーな嘘なのは間違いない。こんなやり取りをよくしていたな。
「ふふ、相変わらず面白いな、斉藤は」
「人生楽しくいかなきゃな」
○
退屈だった講義も、斉藤のおかげで少しは楽しめた。
俺と斉藤は学食へいき、少し早めの昼食をとることにした。
「んで、四条。お前の就職先はどんなところなんだよ」
「俺が就職したのはしっていても、それは知らないんだな。お前の自慢の情報網はどうした?」
俺はおちょくるように斉藤に訪ねた。
「あれはお前にカマかけただけだからな。まぁ、求人掲示板を必死を毎日のように訪れていたお前が、途端に見に来なくなったからな。決まったんじゃないかと思って探ったわけさ」
斉藤の発言に俺は驚いて、思わず目を見開いてしまう。なんだその探偵っぽい洞察力は。もしかして斉藤は俺より、探偵に向いてるんじゃないか?
「んで、そんなことはいいから、お前の就職先はどんな会社なんだよ〜」
「あ、ああ。黒崎探偵事務所ってとこなんだけど……」
「探偵事務所!? おいおい、四条! お前、探偵になるのか!」
「いや、まぁ……うん、そうなのか?」
これまで事務所のことを振り返ると全くというほど、探偵らしいことをしていない。やっていることはほとんど、遊びのようなものだ。
「なんだよ、探偵事務所に入ったのなら、やることといったら探偵しかねぇだろう」
「んー、そうなんだけど……」
「しっかし、すげーなぁ。探偵かぁ。普通のサラリーマンとかと違って、なんだか特別感強いよな。アニメみたいに、難解な事件なんかを解いちゃったりすんだろ? もしくはあれだ、悪徳政治家の闇を探るために尾行したり、写真撮ったりして、週刊誌に載せるとか」
「それは、週刊誌の記者じゃね?」
まるで自分のことのようにワクワクする斉藤。
だが確かに斉藤の言ったようなことをするのが、世間一般のイメージだ。
「いやー、すげーなぁ。探偵。俺、そこにウケたかったなぁ」
「お前はまず、単位をしっかり取るところからだな」
「それをいうなよ、心の友よ」
○
「おう、光太郎。今日は……」
「今日は探偵のノウハウを教えてください」
事務所にきて、いの一番に麗華社長に向かって自分の意志を伝えた。いつも、事務所に着くと俺が何か口に発する前に、麗華社長やアンダーソンに捕まり、外に連れ出されてしまう。
先手必勝。先制攻撃。開口一番。
「ほう、そうか。丁度いい。実は今日は探偵らしい仕事をしてもらおうと思ってな」
「え、ホントですか!」
俺は意外な返答に、声が少し大きくなる。ついに、探偵らしいことができると思うと自分が結構ワクワクしているのだと実感する。
「ああ、公園にいたピエロいただろ。アイツの根城を掴んできてほしい」
「ピエロ……ですか? あの通行人に素通りされていたピエロですか?」
「そうだ、あのピエロだ」
あの虚しいピエロのお兄さんを思い出される。麗華社長が悪魔というピエロ。
「昨日もやつを探しに行って……まぁ見つけたんだが、私に気づくとすぐ逃げられてしまってな。雑魚のくせに妙に逃げ足だけは早くてな」
麗華社長は悔しそうにタバコに火をつけ、深く煙を吸う。よほどイラついているのか、一息でタバコが半分以上燃え尽きてしまった。
「それで……俺が代わりに……」
ポワっと煙を吐き出しながら頷く。
確かに麗華社長が外を歩くとどうしてもひと目が付いてしまい、どうしても目立ってしまう。俺のような、普通の大学生であれば、とくに怪しまれずつけることができるだろう。
「でも、俺……尾行なんてやったことないですよ?」
小学生のころ、好きな子にこっそり付いていったことくらいしかない、と言おうとしたが、寸前で飲み込んだ。あれは俺にとっての黒歴史。掘り返すものではない。
「大丈夫だ。逆に素人のほうが今回はいい。見つかってもお前のことを自分が引き込んだ餌だと思ってニヤニヤしてくるだろう」
「え、なんすか、それ。こわい」
あの真面目に客引きをしているピエロが、裏で客を『餌』と思っているなんて信じられないが……。
「そのピエロ……一体何したんですか? 詐欺とかですか?」
「おいおい、あいつは雑魚とは言え、アイツは悪魔だよ? そんな詐欺とか可愛いことはしない。人の魂を弄び、不幸にする、とんでもないやつさ」
そんなにやばいやつなら、警察に連絡したほうが……といいそうになったが、麗華社長の眼力に圧倒され、口を開くことができなかった。
「出現ポイントはおそらくこの辺りだ。何か変化がおきたら、私の携帯、もし出なかったら事務所に連絡しろ」
「わ、わかりました」
「探偵としての初実戦だ。無理せず、ほどほどに頑張ってこい」
就職先は魔女が経営する探偵事務所 赤橋慶子 @Kakahashi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。就職先は魔女が経営する探偵事務所の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます