魔剣を背負って異世界転生!!

蒼朱紫翠

第1話

 おっかしーなー。体がまだある。こう…下半身もちゃんとある。


 猫を助けるために車道に出たら、陸上部らしい子が俺を追い抜いて猫を抱えて走り抜けて、結果俺だけトラックに撥ねられたんだっけ。

 あの後どうなったんだろう?……てか、僕って死に損じゃない!?あのトラックの運転手さんに殺人罪おっ被せて死んだだけじゃん!!

 ああー、今から謝りに行けないかなー。


「少年よ、可哀想に。猫を助けようとしたら後ろから走り込んできた少女に猫を救われて、唖然としていたところにトラックに見事に撥ねられて五体バラバラになって運転手に殺人の罪を被せて、特に何かを為すでもなく十五歳でその人生を終えてしまった、哀しく憐れな少年よ。せめて、異世界で残りの人生を過ごせるようにしてやろう」


 自分で後悔していたところに、神様から追い打ちをかけられた。

 分かってるよ! そんなことくらい!

 追い打ちをかけて来なくてもいいじゃないか!!

 あと、俺ってバラバラ死体になっちゃったの!?


「……それで、何をくれるの?ゲーム的な展開ならここでチート能力~とか、物凄い武器~とか、そういうのをくれるの?」

「何を期待しておるのか知らんが、肉体はそのままじゃから、能力なんぞあげられんぞ?武器はそうじゃなー、一種類の武器くらいは渡してやろう。さあ、望みを言え」


 ここで僕の悪知恵というか、屁理屈な思考が働いた。

 一種類の武器、と言った。

 つまり、一種類の中からいくつも武器を選んでもいいということだ!!


「じゃあ! それぞれの属性の魔剣をくれよ!! 火とか水とか風とかさ!!」

「むっ、悪知恵を働かせおってからに………はぁ、確かに一種類の武器をやるといったのはワシだ。よかろう、各属性の武器を渡してやろう。しかし、おぬしにそれらが扱えるかの?」


 よしっ! これで異世界に行っても楽勝だな!!


「では、今から異世界に飛ばしてやろう。もちろん、全てがおぬしの自己責任じゃからな?地図などないし、食料もない……いや、食料と飲み水くらいは三日分を支給してやろう。あとはまあ、頑張れ」


 神様のクソジジイはあまりにも無責任なことを言い放って理解不能の言葉を唱え始めると、なんか体が光出してキラキラが現れ始めた。


「武器は?食料は?水は?テントとかは?」

「向こうに転生した時に一緒に送り届けておくわい。ほな、頑張れよ~」


 あっ!! そういえば、異世界での貨幣とかはどうなるんだ――って言おうとしたけどすでに転生が完了してしまって聞けなかった。

 覚えてろよっ、クソジジイ!!



―――――――――――



 ん……なんか地面が硬い。あと、風が強い。

 ここはどこ……はあ??


 今いるのは周囲が森に覆われた崖の上。

 周りを見回すと確かに道具類は置いてあった。

 リュックサックには紙が貼り付けられていて、内容は―――


“ その世界で最も安全な場所に送り届けた。物も……まあそれなりに用意しておいた。それくらいあればどこかの村とか町に着くまではもつじゃろう。それと、その世界にトラックなんかないから道路に出ても安心じゃ。ほな、頑張れよ~。ワシはもう手助けせんからな~。 神より ”


 手紙を読み終えると、思いっ切り手紙を引き裂いて破り捨ててしまった。

 鼻息が荒かったが、次第に怒りが収まったのか溜め息を吐いて立ち上がった。


「……怒っててもしょうがねえか。移動しよ」 


 リュックをあれこれ調べていたが何かを閃いたのか、嬉々とした表情で周囲に散乱している道具類をかき集め始めた。


「見た目は普通のリュックだな。こう…空間が歪んでる感じもないけど、きっとそういう仕様なんだよな! よしっ! 荷物を詰め込んで旅の始まりだ!!」




―――――五分後


「食料入れたらパンパンじゃねえか! テントとか、小物類とか入れられねえよ!! あと、替えの服がねえじゃねえかよ! どうしろって言うんだよ。この服だけで生活しろってか!?馬鹿じゃねえの、あのクソジジイは!!」


 リュックに食料を詰め込んだが、予想していたような広い空間など無く、食料と革製の水筒を入れたらパンパンで、テントを入れるスペースなど無くなっていた。

 ちょっとした慈悲として回復薬っぽい緑色の液体が入った小瓶が十個。

 他にも青い液体が入った小瓶が十個あった。


 途方に暮れて切り株に座り込み、目を閉じてしまうのだった。





 少し前まで切り株で目を閉じてジッとしてはずが、突如リュックに近付いて何かをし始めた。

 

「よし、これいいだろう! 俺って天才か?」


 どうなったかというと、持ち物は全部持っていくという結論になった。

 そう結論付けて今度はどう運ぶかを考え、テントはやはり片手で持つことになった。じゃあ、剣はどうなったかというと………


「持てなければ引き摺って行けばいいじゃんか! こうやって紐で括り付けとけば落ちることもないしなっ!!」 


 リュックに元々付いていた帯を剣の鞘に巻き付けてリュックからぶら下げることにしたのだ。二本はリュック内部に無理矢理隙間を空けてブッ刺し、残りの五本のうち三本をどうにかリュックに括り付け、二本を腰に差している。

 どう見ても旅に不慣れな冒険者にしか見えないが、本人は随分と納得している。非効率的な格好なのに。


「いざ、最初の町へ! どうせ一日も歩けば着くだろっ」


 少年は当てもなく、沈みかけの太陽目指して歩く。

 そこには大きな山が見えているだけだというのに。






 結果から言えば、予想通りだった。

 三時間ほど歩いた頃には日が完全に沈み、辺りは暗闇と静寂に包まれた。

 今だ魔物の遠吠えや足音が聞こえていないのが唯一の救いといえるだろう。


「暗い。暗すぎ。全然周り見えねえじゃん。月もほとんど雲に隠れてるしさー」


 と言いつつ、当人はまだ当てもなく歩いている。

 松明も何も持たず、月明りだけを頼りにして。


「こういう時、なんか便利アイテムがあれば良かったんだけど……そうだ! 魔法剣でどうにか出来んじゃね?」


 そう言って、少年は左の腰に提げている剣を抜こうとした。


「こっちは光属性の剣だよな。鞘の意匠が綺麗だし、きっと刀身にも綺麗な紋様が入ってるんだろうなー」


 少年は期待しながら剣を抜いた――まではよかった。


「おおっ! 明る――眩しっ!! 眩しいわ! どんだけだよ!? 失明するわっ!!」


 少年は叫びながら剣を鞘に戻す。

 剣から迸った光は、太陽がある時よりも強烈に周囲の木々を照らし出した。

 結局、少年は月だけを頼りに散策を再開。



 その後、歩き疲れたのか、奇跡的に見つけた川の側にある木にもたれて寝ることに決めたようだ。

 「テントの意味ねえじゃん!」などとツッコんでくれる人は勿論いない。

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