第4話
そう言うと、男は姿を消した。
それと同時に、俺の意識も消えた。
気がつけば朝になっていた。
普段眠りの浅い俺が、こんなにもじっくり寝たのは久しぶりのことだ。
――これがあの幽霊の言った、ささやかなお返しなのだろうか?
そう思いながら俺は出社した。
社に着くと、あの糞上司がまだ来ていなかった。
――珍しいこともあるもんだ。
いつもなら誰よりも早く会社に来て、あとからやって来る者全員に嫌味を言うのだが。
あいつがいないおかげで俺はもちろんのこと、もう一人の営業マンと事務の女子社員も、いつになく生き生きしていた。
誰も、なんでやってこないんだろうとか、なにかあったのだろうかとか、心配をする者はいなかった。
みんなあんなやつは死んでしまえばいいと思っていたからだ。
そしてお昼前、もう一人の営業マンが出払って、俺が女子社員と楽しくおしゃべりをしていると、上司がやって来た。
それを見て俺は驚いた。
なにせ上司の背中に、あの幽霊がしがみついていたのだから。
しかし女子社員の反応を見る限り、彼女には幽霊は見えていないようだ。
見えていたら、普通に「おはようございます」とは言わないはずだ。
俺だけに見えるらしい。
上司は憔悴しきった顔をしていた。
この人は明日死ぬ、と言われたら無条件で信じてしまうほどに。
幽霊は俺の顔を見てにっこりと微笑むと、ピースサインをした。
終
事故物件に泊まったら自縛霊がいた ツヨシ @kunkunkonkon
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