第3話

この部屋で首を吊った男の顔だ。


――ひええええええっ。


半ばパニックにおちいり、金縛りにあっているにもかかわらず逃げようとしたが、小指の一本すら動かすことが出来なかった。


すると声が聞こえてきた。


「ほんと、すみませんねえ」


――えっ?


この男がしゃべっているのだ。


生きている人間とほとんど変わらない声で。


「ご迷惑をおかけしました。僕がおたくの会社が所有する部屋で首吊ったものですから、この部屋が事故物件になってしまって。家賃も下げないといけないでしょうし、いろいろと面倒なこともあるでしょうし。ほんと申し訳ないと思っています」


聞いたことがある。


幽霊のほとんどは、生前の性格そのままであると言うことを。


このものの言い方といい、その内容といい、この男は真面目でお人よしで気弱な男だったのだろう。


はっきり言って自殺しやすい性格である。


実際に自殺しているし。


「それであの鬼上司の命令で、自殺者が出た部屋で一泊させられているんですね。僕のせいで嫌な仕事を押し付けられることになっちゃって。ごめんなさい」


――なんでこの幽霊はそんなことを知っている?


幽霊というのは千里眼でもあるのだろうか。


それとも俺の考えが読めるとでもいうのか。


幽霊になったことがないから、そのへんはわからないが。


「お詫びと言ってはなんですが、あなたにささやかなお返しをしたいと思います。それではゆっくりとお休みなさい」

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