第10話 幼馴染は助けを求めてくる
路地で、何かが起こることなんてほとんどない。
不調のアシストロボットに出くわすのは、これが初めてだ。
だから、路地にいるとついつい色んなことを考えてしまう。
最初に浮かんだのは、やはり千穂のことだった。
世界が滅びることを知って、彼女はどんなことを思ったのだろう。
きっと、この世が終わるほどの恐怖を感じたに違いない。
……。
いや、本当に世界が終わるんだ。
どうも、実感が持てない。
世界警報が鳴っただけだからだろうか。
昼休みの時は、その場の空気に乗せられて驚いただけだった気がする。
ただ漠然と滅びるとしか言われていないからだ。
それとも、阿僧祇さんから世界が滅びる原因の名前を聞いたからだろうか。
僕の興味がひと段落してしまったのかもしれない。
だが、千穂にとってはそれどころではなかったはずだ。
多分、千穂は世界滅亡と聞いて色々な想像をしてしまったのだと思う。
それで彼女は泣き出してしまったのだろう。
でも、放課後には普段の千穂に戻っていた。
ひょっとすると、千穂もあの場の空気に乗せられてしまったのかもしれない。
……。
本当にそうだろうか?
千穂はすごい怖がりだ。
あれが雰囲気のせいだとは、とても思えない。
他の人ならともかく、昔から千穂のことを知っている僕には、あれが本心からの叫びにしか聞こえなかった。
もしかすると、放課後の千穂は強がろうとしていたのではないだろうか?
自分は平気だと、言い聞かせていたのではないか。
それで無理をして、話したくもない僕と喋ったのではないだろうか。
そう思うと、千穂のことが心配になってくる。
僕に千穂のことを助けられたら……
また、柄にもないことを思ってしまう。
でも、僕にはできない。
仲直りもできない僕に、そんなことできる訳ない。
でも、千穂のことは助けたい。
せめて、仲直りできたら、今よりもずっと千穂のそばにいられるのだが……
しかし、後10日でどうすればいいんだ……
仲直りをして、その上で千穂を助ける。
そんな余裕が何処にあると言うんだ!
それでも、僕はどうしても千穂を助けたい。
せめて世界が終わるその日まで、僕は千穂の支えになりたい。
千穂が怯えているのを黙って見過ごせない。
千穂には笑顔でいてほしい。
でも、僕にはどうすることも……
「グスッ……グスッ……」
そんなことを考えていると、不意に女性の泣く声が聞こえてきた。
どうも、近くで誰かが泣いているらしい。
まさか、路地に他の人がいるとは思わなかった。
いったい、どんな人なんだろう?
と思ってから、何処かで聞いたことのある声であることに気づいた。
ずっと前から知っているような……
僕は泣き声のする方に近づいた。
そこにいたのは……
「千穂!?」
声の主を見て、僕は思わず声を出した。
何故、こんなところに千穂がいるのか?
何故、千穂が泣いているのか?
様々な疑問が頭の中を駆け巡った。
「正路……?」
泣き顔の千穂がこちらを向く。
しかも、僕のことを呼び捨てで呼んだ。
喧嘩して以来、千穂は僕のことを君付けで呼ぶようになった。
当時は、千穂との距離が一気に離れたようでとても悲しかった。
だが、元はと言えば僕のせいだったので、呼び方に関しては諦めていた。
ところが、今の千穂は僕のことを昔みたいに呼び捨てで呼んでくれた。
それが、とても嬉しかった。
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁあああああん!!!」
しばらくすると、千穂は泣きながら僕の身体に飛びついてきた。
「うわっ!? 千穂、どうしたんだよ!?」
「怖いよぉぉぉぉ!!」
千穂はなかなか泣き止まなかった。
「大丈夫! 大丈夫だから!」
僕は彼女の背中を優しく叩いた。
落ち着いてくれ……
「う……ぐすん……」
すると、徐々に千穂の泣き声は少なくなり、呼吸も落ち着いてきたように感じた。
「何があったの、千穂?」
千穂が落ち着いたところで、僕は千穂に質問した。
「昼間の世界警報のことを思い出して……また怖くなって……」
千穂は少し震えながらも、僕の質問に答えてくれた。
やはり、千穂はあれからずっと怯えていたのだ。
「正路、お願い……世界滅亡から私を助けてよ」
千穂は不安そうな眼差しを僕に向けてきた。
まさか、千穂の方から僕に助けを求めてくるとは思わなかった。
だが、僕にどうしろというのだろう。
もちろん、千穂のことは助けたい。
しかし、世界の滅亡なんていうスケールの違い過ぎる事態に、僕は太刀打ちできるのだろうか?
答えは明白だ。
「そんなこと……」
「僕には無理だ」と言いかけたところで、阿僧祇さんの言葉を思い出した。
限界を決めるのは誰でもない。
もしかして、僕は勝手に限界を決めているだけ……?
可能性を狭めているのは僕自身……?
僕にもできることはある……?
僕が無理だと決めつけているから、無理なのだろうか?
でも、どうやって千穂を助ければいいのだろう?
僕にはその方法が全く思い浮かばない。
「正路?」
千穂が不思議そうな顔で僕を見た。
突然考え出した僕のことが不安になったらしい。
そこで、僕は気づいた。
世界滅亡をどうにかする方法は思いつかなくても、僕が今できることはあることに……
「大丈夫……」
そして、ひと呼吸置いてから、
「僕が必ず千穂を救って見せる」
千穂の目を見て、僕ははっきりと言った。
もちろん、千穂を助ける手立てがあるわけではない。
つまり、これは嘘だ。
だが、今は千穂を安心させることが最優先だ。
それに、嘘を本当のことにしてしまえばいいのだ。
「正路、ありがとう……」
そう言って、千穂は僕の胸に顔を当てて、また泣き出した。
「ごめん!? 僕、また何かいけないことを言った?」
僕は慌てて謝る。
また、喧嘩にでもなったら全てが台無しだ。
「ううん。嬉しかったの」
「え?」
千穂は涙を流しながら僕に笑ってくれた。
ちょっとドキッとしてしまう。
「喧嘩してからずっと正路と話せなかったのに、正路は私のことを助けてくれるって言ってくれて」
千穂は涙を手で拭きながら言った。
相手と話したかったのは、千穂も同じだったみたいだ。
それがまた嬉しかった。
喧嘩してから、千穂に完全に嫌われたと思っていたからだ。
「必ず救うよ。千穂のことは必ず……」
自分に言い聞かせるように、僕はもう1度自分の決意を口にした。
千穂は必ず助ける。
たとえ自分を犠牲にしてでも……
予告された破滅へのカウントダウン 斜志野九星 @74n09se1
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