第3話

 自室に戻った総督は、椅子に座っていた。


「……くっくっくっ……くくっ……あははははははははは!」


 突然、総督は頭を抱えながら笑い出した。


「あ~、もう最高だぜ。誰一人俺の事を疑いもせず、へこへこ頭を下げるとはな。くくくっ……」


 溢れ出てくる笑いを抑えようともせず、総督はずっと笑い続けていた。


 ……ガタッ。


「あ? ああ、そうだそうだ。忘れてた」


 物音がした押し入れのようなスペースに総督が向かう。取っ手に手を掛け、扉を大きく開いた。


「やあ、気分はどうだい?」


 そこにいたのは、身体を縄で縛られた


「貴様! 私に成り済まして何をするつもりだ!」

「決まってるだろ? 吸収だよ吸収」

「吸収、だと?」

「そうだよ。ジャンル全員を殺して、俺がその全てをいただく」

「バカな真似はよせ! そんなことをしても無意味だ!」

「無意味じゃねぇよ。ちゃんと効果は実証済みだ」

「何?」


 縄で立ち上がれない本物の総督に、偽の総督がしゃがんで近付く。


「エス、つったか? SF担当の奴の名前」

「ああ、そうだ」

「全く、あんたもよわっちーな。エスを人質にしたらあっさり捕まっちまうんだもんな」


 そう。エスはこの偽の総督に騙され、本物の総督を捕まえるための餌となってしまった。


「私はどうなっても構わない。だから、彼を解放したまえ」

「ひゃっひゃっひゃっひゃっ! 総督の鏡だね~」


 偽の総督はまた高笑いをあげた。


「何がおかしい。早くエスを解放しろ」

「それは無理」

「何だと! 貴様、いいかげんに――」

「だって、もう殺しちゃったから」

「な、なんだ、と……」

「いや~、最高だったぜ? ナイフで突き刺し時のあいつの顔。『えっ、何で? 何で?』みたいなバカな顔しててさ~。状況が全然分かってねぇの」

「き、貴様ぁぁぁぁ!」


 力の限りを振り絞るが、縄から解放されることはなかった。


「なぜだ! なぜエスを殺した!」

「だからさっきも言ったろ? 吸収するためだって」

「バ、バカな。貴様、まさか本当に人気を奪えると思っているのか?」

「ああ、違う違う。俺が欲しいのはそんなくだらないもんじゃない。もっと別のもんだ」

「別だと?」

「そっ。それがなんなのかは……これから知っていけばいい」


 そう言うと、偽の総督は扉を閉め始めた。


「待て! 何処に行く気だ!」

「決まってるだろ。また次の獲物を狩りに行くのさ」

「やめろ! これ以上私のジャンル達に手を出すな!」

「それは聞けない頼みだな。安心しな。事が終わったらあんたも殺すから。というか、殺さないといけないんだわ」

「だったらまず私から殺せ!」

「それも無理。順番があるんだよ。俺の目的を果たすためにはな」

「その目的とは何だ!」

「後々分かるさ。だから、そこでゆっくり見物していてくれよ、総督さん?」

「待て! 待てぇぇぇ!」


 パタン、と扉が閉まると、本物の総督の声は聞こえなくなった。


「さて、と。次の獲物はミステリーのテリーか。あいつには気付かれる恐れもあるし、危険な存在だ。調度よく殺せるぜ」


 偽の総督は身だしなみを整えるため、全身鏡の前に立つ。


「しかし、この服は窮屈だな。歩きづらくて仕方ねぇや。まあ、俺が総督になったら新調すればいいか」


 そして、特徴的な仮面にも手を添える。


「これも悪趣味だよな~。まあ、これがなかったら素顔でバレバレだからな」


 すると、偽の総督は仮面を外し始めた。


「俺の目的は、お前達の人気なんかじゃない。お前達の世界が欲しいんだ。俺は、世界の全てを手に入れる。そのために、あんたのジャンル達は邪魔なんだよ。俺が欲しいのは、俺自身のジャンルだ」


 仮面を完全に外し、床に落とす。鏡には、偽の総督の素顔が写っている。


「これからは俺の時代だ。俺がweb小説界の神になる。あんたは俺の礎となれ……カド○ワのカ○ヨムさん?」


 素顔の顔の頬に書かれている一文字。それは、悪魔の文字と言うかのように恐ろしく写っていた。















 ……『電』という文字一つが。



                  了

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ジャンル殺人事件 桐華江漢 @need

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